岩波文庫創刊90周年

岩波文庫は、ドイツのレクラム文庫をお手本にして、1927年に創刊された叢書でした。

今年2017年は創刊90周年。

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創刊以来、刊行点数は約6000点にのぼるとのことで、道理で集めても集めても集めきれないわけです。

岩波文庫には、大きく6つの分類があります。

・黄(日本古典文学)

緑(日本近現代文学)

・赤(外国文学)

青(日本思想・東洋思想・仏教・歴史・地理・音楽・美術・哲学・教育・宗教・自然科学)

白(法律・政治・経済・社会)

別冊

上に写真を掲載した『岩波文庫解説総目録』(全3冊)『岩波文庫の80年』は、それぞれ岩波文庫創刊70年、80年の年に刊行された総目録です。

 

私は、学生の時分に岩波文庫を集め始めました。いまから25年ほど前のことです。

物を知らないので、とりあえず古典と呼ばれるものを端から読もうと思ったとき、学生でも手軽に手にとれるのがこの文庫でした。

大学を卒業して会社に勤めるようになってからは、毎月刊行される新刊を、自分の関心とは関係なくすべて入手して読むようにしています。そうして四半世紀近くつきあい続けていまに至ります。

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(岩波文庫の棚のうち、青帯と赤帯の一部。棚の前後二重に収めています)

岩波文庫だけでなんでも用が足りるわけではありませんけれど(例えば自然科学や数学、音楽や美術方面はあまり書目がありません)、文字が発案されて以降の人類の文化史を見渡すとき、多くの手がかりを与えてくれるベースとしても機能しています。

その後、講談社学術文庫、同文芸文庫、ちくま学芸文庫、ちくま文庫、河出文庫、中公文庫、中公クラシックス、平凡社東洋文庫、平凡社ライブラリー、光文社古典新訳文庫など、古典を(も)収める新しい叢書も登場して相対化されつつあります。

とはいえ、それでもなおこれだけの範囲とヴォリュームをカヴァーした叢書としては他に類を見ないものだと思います。

今後とも読み続ける所存です。

 

そういえば、『アイデア』No. 367(誠文堂新光社、2014)の郡淳一郎さんによる企画「日本オルタナ文学誌 1945-1969 戦後・活字・韻律」特集号に、岩波文庫について書いたことがありました。

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(「アイデア」のウェブサイトより)

詳しくは、下記リンク先をご覧ください。

 

岩波書店:岩波文庫創刊90年にあたって

アイデア No.367

 

 

書評「一三〇〇年越しのミステリー」

『新潮』2017年06月号第114巻第6号(新潮社)に、書評「一三〇〇年越しのミステリー」を寄稿しました。

ご紹介したのは、池澤夏樹『キトラ・ボックス』(角川書店)です。

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キトラ古墳をめぐる歴史・考古学ミステリー×国際陰謀という二重の謎がしかけられた百学連環的活劇。しかも『アトミック・ボックス』の読者には、二度おいしい(未読でもまったく無問題)。

 

池澤夏樹さんといえば、「千夜千冊」編集部によるインタヴュー「作家・池澤夏樹が考える「日本語と編集」」も興味深く読みました。

 

第43回川端康成文学賞は、円城塔さんの「文字渦」とのこと。おめでとうございます。

 

 


新潮45 2017年 06 月号 [雑誌]

新潮45 2017年 06 月号 [雑誌]

 
キトラ・ボックス

キトラ・ボックス

 

 

『夏目漱石『文学論』論(仮)』

執筆中の『夏目漱石『文学論』論(仮)』(幻戯書房から刊行予定)の本文をひととおり書きました。

漱石の『文学論』を読み、使うための本です。

最初の原稿をいつ書き始めたのかと思ってフォルダを見てみたら、2013年の秋頃でした。もう3年以上やっているのですか。

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だいぶ削ったけれど、目下のところ26万5千字ほどあります(400字詰め原稿用紙換算で約660枚/Wordで281ページ)。

ここしばらくプリンターを使えない状態だったので、もっぱらパソコンやiPadの画面で書きついできました。

その結果、わたくしの場合、本のような長い文章については、途中で紙にプリントしてみないと、あちらこちらの部分同士をうまくつないだり調整するのが難しい、ということが分かってきました。

先日ようやくプリンターを新調して、全体を印刷できたというわけです。

これから赤ペン片手に、自分の文章にどしどしツッコミを入れながら推敲を進めて参ります。

『「百学連環」を読む』(三省堂)と同様、古典的文章を読み解く本ですが、スタイルはかなり違うものになる予定です。

乞うご期待。

 

文学論〈上〉 (岩波文庫)

文学論〈上〉 (岩波文庫)

 
文学論〈下〉 (岩波文庫)

文学論〈下〉 (岩波文庫)

 

 

Robert L. Belknap, Plots

Robert L. Belknap, Plots (Columbia University Press, 2016)

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ロバート・L・ベルクナップ(1929-2014)によるプロット論。

プロットに該当するミュトスについて、アリストテレスは「要約」「出来事の組み合わせ」と定義している。本書では、後者の意味でのプロットを探究するとのこと。ボリス・トマシェフスキーによる「ファーブラ(fabula)」と「シュジェート(Siuzhet)」の区別を手がかりとしてプロットを考察する。

preface

Introduction, Robin Feuer Miller

 

Part I. Literary Plots Deserve Still More Study

1. Plots Arrange Literary Experience

2. Plot Summaries Need More Serious Study

3. The Fabula Arranges the Events in the World the Characters Inhabit; the Siuzhet Arranges the Events in the World the Reader Encounters in the Text

4. Authors Can Relate One Incident to Another Only Chronologically, Spatially, Causally, Associatively, or Narratively

5. Plots Are Fractal, Formed from Incidents That Are Formed from Smaller, Similarly Shaped Incidents

6. The Best Authorities Consider Plots and Incidents to Be Tripartite, with a Situation, a Need, and an Action

7. But Siuzhets and the Incidents That Form Them Have Two Parts: An Expectation and Its Fulfillment or Frustration

 

Part II. The Plot of King Lear Operates Purposefully But Also Reflects the Creative Process

8. For Integrity of Impact, Stages, Actors, and the Audience Need a Unity of Action

9. Shakespeare Replaced the Greek Unity of Action with a New Thematic Unity Based on Parallelism

10. Shakespeare Uses Conflict, the Righting of Wrongs, the Healing of an Inruption or Disruption, and Other Standard Plotting Devices, But His Recognition Scenes Move Us Most

11. Shakespeare Prepares for His Recognition Scenes with Elaborate Lies

12. In King Lear, Shakespeare Uses Elaborated Lies to Psychologize the Gloucester Subplot

13. Tolstoy and Tate Preferred the Comforting Plots of Lear's Sources to Shakespeare's, But Shakespeare Had Considered That Variant and Rejected It

 

Part III. The Plot of Crime and Punishment Draws Rhetorical and Moral Power from the Nature of Novel Plots and from the European and Russian Tradition Dostoevsky Inherited and Developed

14. European Novelists Elaborated or Assembled Incidents into Plots Long Before Critics Recognized the Sophistication of the New Genre in Plotting Such Subgenres as the Letter Novel and the Detective Novel

15. Dostoevsky Shaped and Was Shaped by the Russian Version of the Nineteenth-Century Novel

16. In Reinventing the Psychological Plot, Dostoevsky Challenged the Current Literary Leaders

17. The Siuzhet of Part I of Crime and Punishment Programs the Reader to Read the Rest and to Participate Actively in a Vicious Muder

18. The One-Sidedness of Desire and Violence in Crime and Punishment Is More Peculiar to Dostoevsky's Plotting Than Dostoevshchina

19. Critics Often Attack Crime and Punishment for a Rhetoric That Exploits Causality in Ways They Misunderstand

20. The Epilogue of Crime and Punishment Crystallizes Its Ideological Plot

21. The Plots of Novels Teach Novelistic Justice, Not Poetic Justice

 

Bibliography

Index

Works by Robert Belknap

 

Robert L. Belknap, 1929-2014 | Columbia | Harriman Institute

 

Plots (Leonard Hastings Schoff Memorial Lectures)

Plots (Leonard Hastings Schoff Memorial Lectures)

 

 

“社会課題”を疑似体験--オランダで発展した「シリアス・ゲーム」

シリアスゲームに関する記事。

ここ数年のスマートフォンの普及により、ゲーム産業が以前にも増して活発な動きを見せている。オランダのゲーム調査会社Newzooの2016年版「グローバルゲームマーケットレポート」によると、2016年は996億米ドル(約10.8兆円)の規模で、2019年には1186億ドル(約12.8兆円)になると予測されている。

 その中で、世界18位、約5億2400万米ドル(約569億円)の市場規模をもつ国がある。人口約1700万人、九州並の国面積をもつオランダである。市場規模でみると世界でのプレゼンスは高いとはいえないが、エンタテイメント系ゲームとは一線を画す「シリアス・ゲーム」というジャンルで高い評価を受けている。 

japan.cnet.com

國分功一郎『中動態の世界――意志と責任の考古学』書評

「日本経済新聞」2017年04月29日号の書評欄に、國分功一郎『中動態の世界――意志と責任の考古学』(医学書院)の書評を寄稿しました。

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私たちは、行動をともすると「する」「される」と、能動/受動でとらえますが、実際にはそんなにすぱっと割り切れるものではありません。しかし、文法のカテゴリー(分類の仕方)に即して、そんなふうに捉えたりします。

古典ギリシア語を学ぶと、「中動態」という、現代語では耳慣れない文法用語にお目にかかります。これは、能動とも受動とも異なる行動のあり方を指し示す態なのです。

國分さんの新著は、この中動態に着目して、その歴史と意味を探究する希有な試みであります。

目次はこんなふう。 

プロローグ――ある対話

第1章 能動と受動をめぐる諸問題

第2章 中動態という古名

第3章 中動態の意味論

第4章 言語と思考

第5章 意志と選択

第6章 言語の歴史

第7章 中動態、放下、出来事――ハイデッガー、ドゥルーズ

第8章 中動態と自由の哲学――スピノザ

第9章 ビリーたちの物語

あとがき

 書評では、どのような内容の本なのかを900字で伝えるというミッション・インポッシブルに挑戦しております。

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(*第1章の扉への書き込み。場合によってはこんなふうに図を描いて頭を整理しています。)

 

日経新聞書評欄、今回で4度目の登場となりました。

・スティーヴン・ワインバーグ『科学の発見』(文藝春秋)

・ロジャー・クラーク『幽霊とは何か』(国書刊行会)

・エイミー・E・ハーマン『観察力を磨く 名画読解』(早川書房)

・國分功一郎『中動態の世界』(医学書院)

過去の3本は、現在「日経スタイル」で公開されております。(下記「検索結果|NIKKEI STYLE」からご覧いただけます)

 

 

中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)

中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)