スコット・ジョセフ「場所のない言葉」第3回「第二のことが第一に」

世界のデザイン誌『アイデア』no.378号(誠文堂新光社、2017/06)に翻訳を寄稿しました。

スコット・ジョセフ「場所のない言葉」第3回「第二のことが第一に」です。

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特集の「グラフィックの食卓」もたいへん充実しております。

また、新連載の太田暁雄「アトラス考――生態学的世界観の視覚化」にも注目したいと思います。初回となる今回は「オットー・ノイラートと『社会と経済』のアトラス」。

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オットー・ノイラートといえば、BNN新社から『ISOTYPE』という本が出るようです。

事象と意味をつなぐ視覚化(=絵文字化)のシステム、ISOTYPE[アイソタイプ]。開発者であるオットー・ノイラートの多面的な活動とともに、あらゆる分野におけるビジュアル・コミュニケーションの発展に影響を与え、インフォグラフィックスのはしりとしてデザイン史に名を残すも、その志を著した出版物がこれまで邦訳されることはなかった。大戦の狭間、移民やナショナリズムを背景とし、国際化社会に向けた絵による教育・掲示の体系化と普及に勤しんだノイラート。彼が夢見た、国家を超える〈普遍的〉世界において、“個人のために"科学が、デザインが、果たすべき役割とは何であったのか。80年の時を経て、今なお問われているグローバリズムの課題、取り組まれているユニバーサルなコミュニケーションツールに通じる、その基礎的で壮大な取り組みに光を当てる。

※本書は、本邦初となる完訳『International Picture Language』(1936)、『Basic by Isotype』(1937)に『Modern Man in the Making』(1939)の全図を収録した、日本オリジナルの合本版です。

 (Amazon.co.jp掲載の書誌より)

 

⇒『アイデア』公式サイト
 http://www.idea-mag.com/

神田桂一×菊池良×仲俣暁生×山本貴光「僕は・文体模写が・好きだ。」

★神田桂一×菊池良×仲俣暁生×山本貴光「僕は・文体模写が・好きだ。」


神田桂一さんと菊池良さんの新著『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)刊行記念のイヴェントに、仲俣暁生さんとともにお邪魔します。

夏目漱石にはじまり、芥川龍之介、太宰治、大江健三郎、安部公房、村上春樹に町田康といった文豪たち。さらには吉本隆明に内田樹といういわゆる評論家。石野卓球に小沢健二などのミュージシャン。雑誌『POPEYE』や『VERY』。はてはインスタ、迷惑メールまで。あらゆる文体で、カップ焼きそばの作り方を書いたなら……。くだらなくて、笑える100人の文体模写をライターである神田桂一さんと菊池良さんが作家たちを憑依させて書ききりました!

イベントでは、ひとりひとりの文体模写を見ながら、苦労した点や、特徴を掴んだときの喜びを分かち合いつつ、文芸評論家の仲俣暁生さんと、著書『文体の科学』(新潮社)で知られる文筆家の山本貴光というプロによる文体の特徴やクセの解説、また「文体とは何か」という壮大な問いまで深めていければと思っています。

 (B&Bイヴェント情報より/作家名を一部訂正)

というわけで、当日は著者のお二人の話を伺いながら、仲俣さんとともに同書の文体模写について、あれこれツッコミを入れたり、「文体とは何か」について検討することになろうかと思います。

日時:2017年06月07日(水)20:00-22:00

場所:本屋B&B(東京都世田谷区)

 

 チケットについては、下記リンク先をご覧くださいませ。


*2017年06月10日追記

当日は「文体練習キット」と題したメモ(A4で10ページ)をお配りしました。文章の書き写しの効能、文体の特徴のつかみ方(実例)、文体模写の例を書いたものです。

 

推敲はこんなふうに(のはずが)

ときどき学校などで、文章の書き方を問われたり、話したりすることがある。

おおまかに言うと、まずは書くだけ書いて、それから削って推敲するのが肝心よ、などとお話しすることが多い。

どうして「まずは書くだけ書いて」なのかというと、私が見てきた学生のなかに、「うまく書かねばならない」という思いにとらわれすぎて、結局書けないという状態に陥る人が少なくないようだと、あるとき気づいたからだった。

考えるな、書け。というのは無茶にしても、うまいこと書いたろと意識しすぎると、かえって書けないということはありえる。

そらあキミ、頭のなかで文章をきっちり組み立ててから筆を降ろしたという江藤淳のように作文できるなら世話はないさ。そんな芸当ができない私たちとしては、上手か下手かはあとまわしにして、書くだけ書ければまずは上等さね。

というわけで、まずは書くだけ書くという次第。

本当に大変なのは、そして重要なのは、そうして書くだけ書いた文章をもとに、削ったり書き換えたりする推敲のプロセスなんである。

再びいえば、学生のなかには、本や雑誌に載る文章が、よもやそんなに推敲されているとは想像していない人も少なくないようで、ならばその過程をお目にかけるのがよいかもしれないと思いつつ、これまでなかなか機会がなかった。

最近、ある本の書評を書いたのだけれど、文字数も原稿用紙にして2枚ちょっとの分量だから、推敲の過程をお見せするのにもちょうどよいのではあるまいか。と思って、普段なら用が済むと捨ててしまう途中の原稿(プリントアウト)に朱筆を入れたものを保存しておいた。

そして、最初に書いた原稿のそれぞれの箇所に対して、なぜ、なにを考えて後から朱筆を入れたのかを簡単に解説してみたらどうだろうと考えた。そうすれば、「はっはーん、結果だけ見れば、するするっと書かれているように見える文章も、こんな具合に七転八倒七転び八起きしながら書いているわけね」という次第が分かるだろう――あらましそんなふうに想像したわけである。

一度そういう文章をこしらえておけば、次から学生にも、「これを読むといろいろ分かるよ」とお伝えできるだろうし。

なんて捕らぬ狸の皮算用をしていたところ、比較的労せず仕上げられると踏んでいた、先に述べた書評原稿が、その後、文字通り七転八倒を繰り返して、最初に書いた文章の原形もとどめないような案配で書き換えられてゆき、途中、三度か四度のプリントアウトと朱筆入れを経て、つい先ほど最終形になったのだった。

こうなると、最初の草稿から、どんなプロセスを経て最終稿に至ったかを再現するだけでも一大事で、途中なにをどうしてそう書き換えたのかに至っては、自分でも全部は思い出せないに違いない。ましてや、なぜそこで「これでよし」と手を止めたのかなど。

書いてみて、自分の外に出す。出したものを眺めて考える。考えてまた書く。

基本はこの繰り返しだ。書いてみたことが意に満たないと感じたり、これではうまく通じないと想像して言葉を選び直す。文の提示順がよろしくないと書き直す。なのだが、これがどんどん繰り返されてゆくと、しまいには自分でもなにをどうしてこうなったのか、定かではなくなってゆくのである。

――というわけで、推敲の過程を見えるようにして解説を加えてみようという当初の計画はあえなく頓挫したのでありました。

『今日の宿題』

Rethink Books編『今日の宿題』(NUMABOOKS、2017/05)

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2016年に、期間限定で開いた書店Rethink Books(福岡)からのご依頼で、「宿題」を考えました。いろいろな人が考えた宿題が、日替わりでRethink Booksの店頭にある黒板に掲げられたとのことです。

この本は、その全320題を集めて1冊にまとめたもの。谷川俊太郎さんから始まり、吉増剛造さんで終わる647ページ(+あとがき、索引)、頭から一つずつ読んでもよし、ぱっと開いて読んでもよし、索引から気になる名前を探してみてもよしと、いろいろな楽しみ方ができます。

出題者のリストは、下記リンク先でもご覧いただけます。

bookandbeer.com

 

「人生がときめく知の技法」第8回

ご機嫌いかがお過ごしでしょうか。

webちくまに吉川浩満くん(id:clnmnとの共著「人生がときめく知の技法」第8回を寄稿しました。

「人間の諸能力について、考える」と題して、エピクテートス先生が指摘する「権内」「権外」について、さらに検討を進めて参ります。

 

この連載で参照している本の写真を少々。

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★1:岩波文庫版『人生談義』です。この当時はまだいまの岩波文庫のようなカヴァーはかかっていませんでした。薄くて透けるパラフィン紙が巻いてあり、本というよりはなにか別のものを手にするような感覚があったのを覚えています。1980年代のことです。ただ、パラフィン紙はだんだん焼けて茶色になり、最後はぼろぼろになって崩れてしまいます。

 

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★2:上巻の本文ページです。20年前くらいに読んだ際、余白に書き込んだメモは、キーワードの一つである「心像」の原語について調べた結果。このメモを見て思い出しましたが、最初「心像」という言葉を目にした折り、それがなにを意味しているのか、いま一つ分かりませんでした。そこで、そもそもどんな言葉を訳したものだろうと原典にあたって調べ、その語を古典ギリシア語ー英語辞典で調べ、ここにメモしたわけです。

 

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★3:原典はどこで手に入るだろうかと探して、神保町の北沢書店(洋書店)で入手したLoeb Classical Library版。初版は1925年で、私が手にしたのは2000年に刷られたもの。著作権が切れており、いまではネットでファイルも手に入ります。いつかこの叢書も全部読もうと思い立ったものの、いまだに達成できずにおります。

 

www.webchikuma.jp

「ゲームと人間」

『atプラス』第32号(太田出版)は、吉川浩満くん(id:clnmn)の編集協力で「人間の未来」という特集を組んでいます。

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吉川君は、表紙とグラビアページにも登場しています。愛犬マの姿も!

 

目次は以下のとおり。

吉川浩満「特集によせて」
稲葉振一郎+吉川浩満「<人間>の未来/人間の<未来>」
木島泰三「自由意志と刑罰の未来」
粥川準二「人間の未来とバイオテクノロジー」
ベンジャミン・クリッツアー「動物たちの未来は変えられるか?」
山本貴光「ゲームと人間」
飯島和樹+片岡雅知「トロッコに乗って本当の自分を探しに行こう」
柴田絵里「アイの自由研究日記」
井上智洋「人工知能とベーシックインカムによる革命」
平野徳恵「セックスロボットの社会的影響と愛の可能性」
諫早庸一「歴史の未来 歴史学の明日」

わたくしは「ゲームと人間――魔法円から人は何を持ち帰るのか」というエッセイを書きました。

 

www.ohtabooks.com

松田行正『デザインってなんだろ?』書評

『週刊読書人』2017年05月19日号に、松田行正『デザインってなんだろ?』(紀伊國屋書店、2017/04)の書評を寄稿しました。

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一面は、柴田元幸さんと大宮勘一郎さんによるポール・オースター『冬の日誌』『内面からの報告書』(新潮社)刊行を機とした対談。

翻訳について柴田さんがこんなことをおっしゃっていて笑ってしまった。

過去にヘミングウェイの作品を訳した時にも、なるべく余計なことはしないように努めました。ただこの人は少しおっかなくて、「余計なことをしたら張り倒すぞ」と睨まれている感じ(笑)。オースターは、もう少し優しく、見守ってくれている気がします。

そういえば、作家によっては翻訳書に解説をつけるのも嫌う人があるとかないとかといった話も聞いたことがあります。

 



2017.05.25追記

上記書評が『週刊読書人』のサイトで公開されました。

同紙では、紙面の記事をウェブでも公開する試みを始めております。私は新聞で読み、後にアーカイヴとしてウェブ版を読むという具合に、双方を使っております。

dokushojin.com