蒐書録#020:『BRUTUS』「特集=国宝。」(あるいは橋本麻里無双)

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★『〆切本2』(左右社、2017/10)

 恐ろしい本の続編。怖い物見たさでつい読んでしまう。締切は迫る。書けぬものは書けぬ、と苦しむ作家たちの姿。でもなぜだか、つらい話のはずなのに笑ってしまうことが多い。例えば、源氏鶏太が、あまりに原稿が書けないので外をうろうろするのだという話の途中、不意に「「俺は、樹になりたい。」と、思ったこともある。」などと言う。売れっ子作家はたいへんだ。

 

★ヤニス・クセナキス『形式化された音楽』(野々村禎彦監訳、冨永星訳、筑摩書房、2017/09)

 Iannis Xenakis, Formalized Music: Thought and Mathematics in Composition (1992)

 古来音楽は数学と関係が深いものだけれど、クセナキスは数学としての音楽を突き詰めている。数理モデルを用いることで、潜在性を含んだ作曲が可能となる。譜面に音符を並べて書かれる音楽でも、そのつどの具体的な演奏によって顕在化されるためのもとを設計したものという意味では潜在性のデザインである。数理モデルによる作曲は、モデルに与えられる条件によって、複数の解が導かれうるという点でも潜在性を備えている。というのは備忘までのメモ。この件は、もう少し腰を据えて考え、言葉にしてみる必要がある。

 

★『東洋経済』第6753号2017年10月7日号「特集=学び直し国語力」(東洋経済新報社)

 野矢茂樹さんの「論理的に書く方法」が載っている。学校や会社で文章の書き方をトレーニングする際、どういうやり方をすればよいかと考える機会が多い。

 

★『BRUTUS』第38巻第19号2017年10月15日号「特集=国宝。」(マガジンハウス)

 京都国立博物館「開館120周年記念特別展覧会「国宝」」に合わせたガイド特集。構成と文は橋本麻里さん。「ステレオタイプな「「日本の美」語りが、判で捺したように「ワビサビ」「引き算」「余白」あたりで思考停止している今日、『国宝』展を機に推していきたいのが、「足し算の美」だ。」という書き出しに釣り込まれて読み進めば、ページを繰っても繰っても橋本さんの文章で、附録はさすがに別の人かと思ったらこれも橋本さんで、葛西薫氏が登場する辺りは……やっぱり"text / Mari Hashimoto"で舌を巻く。これだけの幅と内容について、こんなふうに面白くてためになる文章を書ける人がいるなんて、日本美術は幸せ者である。

 

★于耀明『周作人と日本近代文学』(翰林書房、2011)

 漱石の『文学論』が中国語訳された際(張我軍訳、神州國光社、1931)、周作人が同書に序文を寄せているらしいと知って手にした本。

 

★ヤン・ムカジョフスキー『チェコ構造美学論集――美的機能の芸術社会学』(平井正+千野栄一訳、せりか書房、1975)

 ヤン・ムカジョフスキー(Jan Mukařovský、1891-1975)の美学論6編を集めた本。収録された論文は「美学および文芸学における構造主義」「記号学的事実としての芸術」「詩的な意味表現と言語の美的機能」「詩的比喩の意味論のために」「ヴァリアントと文体論」「社会的事実としての美的機能、規範および価値」。平井正「ヤン・ムカジョフスキーの構造美学」、千野栄一「あとがき――ヤン・ムカジョフスキーをめぐって」。

 

 

蒐書録#019:ヘイドン・ホワイト『メタヒストリー』ほか

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★ジェームズ・C・スコット『実践 日々のアナキズム――世界に抗う土着の秩序の作り方』(清水展+日下渉+中溝和弥訳、岩波書店、2017/09)

 James C. Scott, Two Cheers for Anarchism: Six Easy Pieces on Autonomy, Dignity, and Meaningful Work and Play (2012)

 訳者あとがきでも述べられているように、原題を直訳すれば『アナキズムに万歳二唱――自律、尊厳、そして意味のある仕事と遊び』。他に邦訳された仕事としては『モーラル・エコノミー』(勁草書房)、『ゾミア』(みすず書房)がある。

 

★山本太郎『抗生物質と人間――マイクロバイオームの危機』(岩波新書新赤版1679、2017/09)

★青山南『60歳からの外国語修業――メキシコに学ぶ』(岩波新書新赤版1678、2017/09)

 現在の情報環境のなかで、新書という器はどのように位置付けられるものだろうか、ということを考える宵でした。

 

★堀真理子『改訂を重ねる『ゴドーを待ちながら』――演出家としてのベケット』(藤原書店、2017/09)

「本人による数百か所の台本改訂と詳細な「演出ノート」――ベケットがアップデートし続けた『ゴドー』の神髄とは何か?」(帯文より) こういう話をもっと読みたい。文学作品の生成研究ではないけれど、作家がどのように自作に手を入れ続けたかという経緯はそれ自体、興味津々。

 

★宮川公男『統計学の日本史――治国経世への願い』(東京大学出版、2017/09)

 学術史のマッピングには欠かせない重要なピースがまた一つ手に入った。トドハンターの統計史も新版が出たようです。

 

★ヘイドン・ホワイト『メタヒストリー――一九世紀ヨーロッパにおける歴史的想像力』(岩崎稔監訳、作品者、2017/09)

 Hayden White, Metahistory: the historical imagination in nineteenth century Europe (1973)

 twitterでうっかり作品社さんのアカウントに向けて『メタヒストリー』について述べてしまったために、開いてはならぬ扉を開いたような展開になったのは、もう2014年のことでした。

 今回も現物をこの目で見るまでは、と東京堂書店を訪れた機会に哲学思想書の棚を見ると……「ない」。おお、やはりみなが出たと言っていたのはなにかも間違いか、私が見たつかの間の幻だったのか、と諦めかけていたところ、歴史書コーナーにありました。

 と、どうでもよろしい与太話はともかくとして、訳者のみなさま、作品社のみなさま、たいへんおつかれさまでした。ありがとうございます。さあ、予告されながらまだ出ていない次の名著は、と。(自分も翻訳のお約束を2件お待たせしているのでやや危険なコメント)

 

★『日経サイエンス』第47巻第11号通巻557号2017年11月号「特集=記憶――過去を変える実験」(日経サイエンス社)

 

★岩波文庫編集部編『岩波文庫解説総目録 1927-2016』(岩波書店、2017/09)

 創刊90周年を迎えた岩波文庫。これまで約6000冊を刊行とのこと。これを機に、改めて蔵書を確認し直そう。

 

 

蒐書録#018:『J・G・バラード短編全集4』ほか

『夏目漱石『文学論』論(仮題)』(幻戯書房、近刊)の作業に追われ、来る日も来る日も漱石関連文献の確認をつづけていると、終わりのない作業のように思われてきて、くらくらして参ります。

こういう日々を送っていると、漱石に関係のない本がすべて新鮮に見えるといううれしい(?)副作用もありますのよ。

というわけで、いったい誰がよろこぶのか分からないまま、入手した本(の一部)をご紹介するコーナーを続けております。この間、漱石関連文献も数十冊増えましたが、これは省略してそれ以外の本から。

 

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★レオ・ルーカス『ローダンNEO3 テレポーター』(鵜田良江訳、ハヤカワ文庫SFロ10-3、早川書房、2017/09)

 Leo Lukas, Perry Rhodan Neo Der Teleporter (2011)

 月に一度のお楽しみ。

 

★『J・G・バラード短編全集4』(柳下毅一郎監修、東京創元社、2017/09)

 全5巻の第4冊目。最終巻は2018年1月刊行予定とのこと。先頃完結した国書刊行会の「レム・コレクション」といい、この「J・G・バラード短編全集」といい、彼らの作品を追いかけてきた読者として、たいそう感慨深い企画です。ありがとうございます。バラードの長編も全集の形でまとめていただけると、さらにうれしゅうございます。


★橋爪大三郎『正しい本の読み方』(講談社現代新書2447、講談社、2017/09)

 同書については近くお知らせがございましてよ。

 

★大澤真幸『憎悪と愛の哲学』(角川書店、2017/09)

 NPO東京自由大学での連続講義「社会学の新概念」から二つを選んで書籍化した本。「資本主義の神から無神論の神へ」「憎悪としての愛」の2章から成る。一度ここまでの大澤真幸さんの関心対象の広がりと提示された問いと本をマッピングしてみたいところです。

 

★Caroline Levine, Forms: Whole, Rhythm, Hierarchy, Network (Princeton University Press, 2017 [2015])

 フォルマリズムをはじめ、文学研究の領域で使われてきた「形式(form)」という概念を拡張して、文学作品を読み解くための新たな道具に鍛え直すという趣旨。formという概念だけでも考えることが山ほどありそう。

 

★Paris Review no. 222, Fall 2017 (Farrar Straus Giroux, 2017)

 毎号楽しみにしている文芸誌。詩と小説とインタヴュー。名物のThe Art of Fictionに加えて2号前からThe Art of Editingというインタヴュー・シリーズが始まっている。

 

★Le Magazine Littéraire, No. 583, Septembre 2017, Les Romans de la Rentré

★Le Magazine Littéraire, No. 584, Octobre 2017, Homère: Pourquoi on a besoin de lui

 紀伊國屋書店新宿南店(洋書売り場)を訪れるたび、最新号があると手にする雑誌なのだけれど、今回はどういうわけか9月号と10月号が同時に並んでいたので2冊同時に入手。

 

★『現代思想』第45巻第19号2017年10月号「特集=ロシア革命100年」(青土社、2017/09)

★『ユリイカ』第49巻第18号2017年10月号「特集=大根仁――『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』から『演技者。』『モテキ』『バクマン。』まで」(青土社、2017/09)

 毎号申し上げて恐縮ですが、『現代思想』と『ユリイカ』は月刊誌です。(号数に注目)

 

蒐書録#017:大森貴秀+原田隆史+坂上貴之『ゲームの面白さとは何だろうか』

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★亀井俊介編『現代の比較文学』(講談社学術文庫1114、講談社、1994/02)

『現代比較文学の展望』(研究社、1972)として刊行された論集の文庫版。目次は以下の通り。

・はしがき(原本)

・学術文庫版はしがき

・亀井俊介「比較文学の視野――ホイットマン的文学の系譜」

・青柳晃一「影響と選択――サンタヤーナとエリオットのゲーテ観」

・瀧田夏樹「芸術運動の一と形態――ドイツ表現主義の場合」

・小堀桂一郎「材源研究の意味――芥川龍之介・里見弴・その他」

・平川祐弘「知的刺戟の一様相――鷗外の『金毘羅』とゾラの『ルルド』」

・芳賀徹「非西欧世界の「西欧化」運動――夷狄の国への冒険者たち」

・酒本雅之「文学を「比較」することの意味――構造への志向こそ窮極だということについて」

・オールドリッジ+亀井俊介「対談 比較文学の問題と展望」

・柳富子「参考文献――日本における最近三十年の成果を中心に」

・索引

 

★沙村広明『波よ聞いてくれ』第4巻(講談社、2017/09)

★よしながふみ『きのう何食べた?』第13巻(講談社、2017/09)

マンガはほとんど電子版で読むようになったため、本で手にするものがぐっと減ってきた。いずれも好きな漫画家の作品最新巻。

 

★大森貴秀+原田隆史+坂上貴之『ゲームの面白さとは何だろうか』(慶應義塾大学出版会、2017/09)

書名に掲げられた問いをめぐって、著者たちが試行錯誤する過程も含めて見せてくれる点がとても勉強になる本。後でもう少し詳しく述べてみたいと思います。

 

★『日本語学』第36巻第10号2017年09月号「特集=電子機器が変えつつある日本語」(明治書院、2017/09)

メディアによって言語の使い方が変わるとしたら、それはどのようにか。てなことを期待して読む読む。

 

★『scripta』第45号2017年秋号(紀伊國屋書店、2017/09)

吉川浩満くん(id: clnmn)の連載「哲学の門前」第5回「ディス/コミュニケーション(1)」。個人的体験と考察を交互に書き綴るエッセイで、今回は個人的体験パート。

 

★『風の薔薇』(全5冊、書誌風の薔薇、1982-1991)

古本で揃いが出ていたのを見かけて入手。各特集は以下の通り。

・第1号 言語、さえも(1982年夏)

・第2号 相互テクスト性の問題(1983年夏)

・第3号 シュポール/シュルファス(1984年夏)

・第4号 ジャン=フランソワ・リオタール(1986年夏)

・第5号 ウリポの言語遊戯(1991年秋)

 

★加藤典洋『もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために』(幻戯書房、2017/09)

雑誌などに発表した文章と講演を集めた論集。まずは自分の目下の関心に従って「矛盾と明るさ――文学、おのわけのわからないもの」から拝読します。

 

★『ロラン・バルト著作集 第8巻 断章としての身体 1971-1974』(石川美子監修/吉村和明訳、みすず書房、2017/09)

これにて全10巻完結。いつか、これまで刊行された翻訳書(多くはみすず書房から出ている)も含めた『ロラン・バルト全集』として仕立て直してもらえたらと夢想しております。

 

★『WIRED』第29号「特集=ワイアード、アフリカにいく」(コンデナスト・ジャパン、2017/09)

 

「ページと文体の力と科学」鈴木一誌×山本貴光トークイベント

先日新著『ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見』(誠文堂新光社)を刊行し、またデザイン誌『アイデア』第379号で「ブックデザイナー鈴木一誌の仕事」(誠文堂新光社)という大特集が組まれた鈴木一誌さんの連続対談イヴェントのお知らせです。

 

日時:2017年10月14日(土)18:00-19:30

場所:青山ブックセンター本店

『ページと力』においてエディトリアルデザインの構造を分析し、その社会性や歴史性を考察したデザイナー鈴木一誌。『文体の科学』でテキストの記述スタイルやデザイン形式に言葉と思考の関係を読み解いた批評家の山本貴光。それぞれの探求から共通の問題系に接近する両者が、書物からスクリーンまで、日常のなかで自明なものとされているテキストとデザインの関係について対話を繰り広げる。

(下記イヴェント告知ページより)

 

というわけで、話相手を務めさせていただきます。

思い返せば、年始めには外山滋比古さん、夏には池澤夏樹さん、先頃は三中信宏さん(吉川浩満くんとともに)、そして鈴木一誌さんと、各界の大ヴェテランにお話を伺う2017年であります。

(と書いているうちに、もう1件オファーが舞い込みました……)

『アイデア』誌に掲載された郡淳一郎さんと長田年伸さんによる行き届いたロング・インタヴューとはまた別の角度からいろいろなお話を伺えればと念じております。お楽しみに。

 


 

桜美林大学ビッグ・ヒストリー・プロジェクト

桜美林大学ビッグ・ヒストリープロジェクト(Oberlin Big History Project: OBHP)とは、宇宙・生命・人間の本質を138億年の地球宇宙史を振り返ることによって考察し、その宇宙的視点を現代の地球的課題に適用するというビッグ・ヒストリーの趣旨を実現するため、桜美林大学の教員と学生が共同で立ち上げたプロジェクトです。

(「桜美林大学ビッグ・ヒストリー・プロジェクト」ウェブサイトより)