批評と批判



柄谷行人編『近代日本の批評I――昭和篇[上]』(福武書店、1990/12; 講談社学芸文庫、講談社、1997/09、amazon.co.jp

福武書店版の序文で、私は、「批評」という言葉で狭義の文芸批評以上のもの、いわば近代日本の知性の精髄を意味している、と述べた。以来七年の間に、私自身がそのことについて幾度も考えさせられた。たとえば、私は批評と呼ばれる仕事をしてきたが、それは一見して狭義の文学批評とは関係がない。にもかかわらず、私はそれらを「批評」と見なしてきたのである。これを奇異と思う人々が今も少なくない。しかし、私の考えでは、これを奇異と見なすこと自体に、近代日本の思想史的歪みが潜んでいる。


「批評は criticism または critique の訳語であるが、批判という語も同様である。ところが、批評と批判には微妙な差異がある。概して、批判は自分の立場(根拠)から他を攻撃するという意味であり、批評はむしろ自分の根拠そのものを問い直すという意味合いをもっているように思われる。」

(同書、p.8)