福本和夫『革命は楽しからずや』


★福本和夫『革命は楽しからずや――回顧録・霧笛篇』(こぶし書房、2003/12、pp.75-76)

「佐野君や徳田君らは、日本の資本主義は、いまやまさに没落の段階にあるとか、激烈に没落しつつあるとか、いうのをいつも口癖のようにしていたもので、経済恐慌の襲来にであうと、それがどんな種類の、どの程度の恐慌であろうと、そんなことには、いっさい頓着なく、それ来た一大瓦落だ、資本主義の激烈な没落だ、断末魔だ、と大口径の当てずっ砲に、得意の革命前夜説を、五里霧中に詰めこんで、ずどんずどんと勇敢に発砲するのが、とくに、徳田君のもっとも好んで用いる得意の手であった。


砲煙と恐慌の五里霧中とが、霧散霧消するまでは、多くの人々には、それがほんとに的中しているのか、どうかの判断がつかず、有象無象は、ただ勇敢な発砲の轟音に、しばらくわれを忘れて、随喜するばかりであった。だが、やがて、砲煙が消え、恐慌の五里霧中も散じてみれば、名砲手、今のは、まるで、的にあたっちゃいなかったぞ。とだれにもわかってくるのであった。


そうすると、あてずっ砲の名砲手は、何の屈託もないほがらかさをもっていうのであった。あたるか、あたらぬか、それは、なんでもかんでも、発砲してみなくちゃ、わからんじゃないか、とまことにすましたものであった


★福本和夫『革命は楽しからずや――回顧録・霧笛篇』(こぶし書房、2003/12、p.88)

治安維持法によって、終戦直前までに、検挙されたるもの六万人にのぼり、そして、その九割五分までが左翼であったという」