★梶田昭『医学の歴史』講談社学術文庫1614、講談社、2003/09、amazon.co.jp)#0112


梶田昭の『医学の歴史』は小さな書物ながら、非常に目配せがきいているすばらしい本だ。古代ギリシアから古代ローマを経てアラビア文化へ継承された文化がルネサンスで再導入され、科学革命を通過して今日に至るまでの流れはもちろんのこと、それと同時にインドと中国も紙幅をさいて論及されている。要所要所で、参照した文献の紹介がなされ、本書全体が医学の歴史についての長いブックガイドのようでもある。通読してもおもしろいし、暇にあかせてぱらぱら開いた箇所を拾い読むのもおもしろい。問題は、去年本書が刊行されたおりにも入手しているかもしれないことだ。ってそんな話ばっかりだ。


二宮陸雄の『ガレノス 霊魂の解剖学』もそうだが、同じソクラテス以前、プラトンアリストテレス他の古典を読むにしても、彼我の問題意識の持ちようによってこれほど読み方(注目箇所)がかわってくるというのが愉快だ。それはちょうど、同じ書店の書棚が訪れる人の関心によって異なるものに見えること、あるいは、同一人物でもそのつど抱いている関心によって同じ書棚(とはいえ実際には書棚自体が日々変化しているわけだが)が異なる相貌を見せるのに似ている。


本書で言及されている以下の書物も読んでみたい。


☆ルドルフ・ウィルヒョウ『細胞病理学』(「科学の名著」第二期第二巻、朝日出版社、1988)


☆ウルフ+アンドゥル・ペデルセン+ローゼンベルグ『人間と医学』(博品社、1996)


☆Roy Porter, The Great Benefit of Mankind, a medical history of humanity (1997; Norton, 1999)