茂木健一郎『脳内現象――〈私〉はいかに創られるか』NHK BOOKS 1002、日本放送出版協会、2004/06、amazon.co.jp


茂木さんは『脳とクオリア――なぜ脳に心が生まれるのか』日経サイエンス、1997、amazon.co.jp)以来、「物質である脳からいかにして心(やクオリア)が生まれるか?」という問題に対して、ニューロンの発火とそのネットワークのふるまいから説明しよう、という方法をとってきた。科学はこれまで意識やクオリアの問題を埒外においてきたけれど、それこそ科学の方法によって解明せねばならないという立場である。


その後の『心を生み出す脳のシステム――「私」というミステリー』NHK BOOKS、日本放送出版協会、2001、amazon.co.jp)や『意識とはなにか――「私」を生成する脳』(ちくま新書、筑摩書房、2003、amazon.co.jp)といった仕事も、『脳とクオリアの線上で書かれた本だった。


今回の本は「科学からの独立宣言」という方針の変化がある。

私たちは、意識がメタ認知ホムンクルスのメカニズムを通じて生み出される脳内現象であるというモデルに達した。このモデルは、意識が生み出される第一原理を未だ解決するものではないが、少なくとも、意識が因果的、客観的科学法則とどのような関係にあるかということを説明する。科学は、意識があろうとなかろうとどちらでもかまわないという。ならば、メタ認知ホムンクルス・モデルとは、すなわち、意識の問題の科学からの独立宣言なのである。

(同書、pp.226-227)


科学は個々人の意識やクオリアの問題を扱わない/扱えない。ならば、科学とは別のやり方でこの問題を探究しよう、という次第。


ここで「メタ認知」とは認知の条件についての認知、「ホムンクルス」とはさまざまな脳内活動をモニターする「主観性の座」であるとの由。

私たちの世界には、実は自分自身の内部をあたかも「外」にあるかのように見渡す、メタ認知しか存在しない。認知の主体と客体が分離している通常の意味での「認知」のモデルは、メタ認知の一つの解釈に過ぎないのである。


脳の中に仮想的に構築されるホムンクルスは、各領域の神経細胞の活動について、それを自己の外部にある客体として観察しているのではない。自己の内なるものの関係性を、「外」にあるかのごとく認識するというメタ認知のプロセスを通して、ホムンクルスの「小さな神の視点」は生み出されている。

(同書、pp.192-193)


このモデルがどういうものなのか、まだよくわからない。時間をおいて読み直してみよう。