★contractioさんの疑問に触れて(承前)



contractioさん(id:contractio)が拙著(『心脳問題』)に対して提示してくださった疑問を読みながら(かみしめながら)考えたことを述べてみます。


と言いつつあらかじめ申し上げますると、私の読解が及ばず contractioさんの疑問を理解・共有したとはいえない状態なのです(スミマセン > contractioさん)。そこで、直接の応答にはならないのですけれど、どうして拙著の第四章で「政治(的)」という言葉を用いるにいたったのか、という経過について述べてみたいと思います。(承前


http://d.hatena.ne.jp/contractio/20040623#1087914524
http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20040623#p2
http://d.hatena.ne.jp/contractio/20040624#1088053279


本書では第3章までを使って心脳問題の結構となぜそれがことの性質上解決不能であるにもかかわらず何度でも回帰してしまうのかという次第を考察しました。そこまでの話は、脳科学を哲学的に考察するという道具立てで事足ります。では、どうして第四章にいたって「政治」の話になるのか。それは概要こんな風に考えてのことでした。


・脳科学は、脳の一般的なスペックの解明・記述を目指している。
 #そしてそれ自体はおおいに前進させ、解明を進めていただきたいと思う。


・そのような脳科学の知見に基づく生物学的な情報の活用(たとえば脳状態のデータ収集と解釈)や科学技術の応用(たとえば薬物による脳の制御)にさいしては、影響が(脳還元主義的に)脳科学外=社会に及ぶ。


・この影響がどのようなものでありうるかを考えるためには、脳科学の内部だけを考察するのでは足りず、脳科学と脳科学外(社会)とのあいだで起こりうること(起こりつつあること)を考えてみる必要がある。


・脳科学の知見に基づく脳情報は人間の管理に流用されてゆくだろうし、脳状態を制御する薬品はその使用の是非について社会の成員は否応なくかかわることになる。


・このように社会のなかで脳科学がどのように機能するか(どのようにわれわれの生きる条件を改変するか)、ということを考えるさいには、「政治的」な視点が欠かせないのではないか。ここで「政治」とは、「ある範囲の人びと全員を拘束してしまうような事柄を決めること」(橋爪大三郎)という意味で使っている。


――という次第。だから「政治(的)」という言葉をユルく使っていると言われれば、たいそうユルく使っているのだな、と思いました。


contractioさんの疑問を数度読み返しながら、以上のようなことを考えたです。


問われていることに対して頓珍漢やもしれませぬ。またお気づきのことがありましたらご教示くださいませませ。> contractioさん