装画=ミミ・グロス
編集出版組織体アセテートの新刊、acetate 005 『ビリーのグッド・アドヴァイス』田口卓臣訳、予価660円)の刊行が2005年03月31日に決まり、同編集出版組織体のウェブサイトで予約の受けつけがはじまっている。

ビリー・クルーヴァーなくして、芸術と科学はない。
アメリカ最高峰のアーティストたちが厚い信頼を寄せた最も頼りになる男。
ノーベル賞級の天才科学者でありながら
芸術の「触媒」に徹しつづけたビリーが贈る
ユーモアと励ましに満ちたアドヴァイス。
アートに関わる者 必携のリーフレット。


同書にはオビが三種類用意されていて、注文時に選べるとの由。三種類のオビには、それぞれ「恋に落ちるな」「アクシデントを利用せよ」「使える金は必ずある」というビリーのグッド・アドヴァイスがあしらってある。当初一冊だけ注文していた私は、このアイデアを見て、思わず注文数を三冊にしてしまった。


ビリー・クルーヴァーって誰? というあなたは、同サイトの解説を読まれたい。ここで下手な説明をするよりもよほど役に立つ情報が提供されている。


E.A.T.展カタログ書影
といいつつひとつだけ述べると、クルーヴァーに関連する催しとしては、2003年にICCにて開催された「E.A.T.——芸術と技術の実験」展が記憶に新しいところ。同展覧は、クルーヴァー、ラウシェンバーグ、ロバート・ホイットマンらが結成したグループ E.A.T. (Experiments in Art and Technology) を介して行われたさまざまな実験の記録を、写真、文書、映像、音声などによって構成したものだった。同展覧にさいして制作されたカタログも E.A.T. の活動を知るうえで資料価値の高い一冊。


アセテートのウェブサイトを見るにつけても思うのは、刊行する書物に関する情報提示が行き届いていてたいへんありがたくうれしいということ。


書物や著者に関する各種情報をウェブで提示することは一見当たり前のように思えるのだけれど、出版社のサイトを見ると実はなかなかそんなに充実しているところは多くない。書店サイトとどっこいどっこいの書誌情報があればよいほうで、どうかすると売れ筋の本の広告ばかりに注力するという、金太郎飴書店の店頭と変わりばえのしない古い流儀の広告技法が目についたりもする。


もちろん出版点数が多くて手がまわらないとか、ウェブといえども制作コストがかさむとか、諸般の事情はあると思う。でも、一読者の立場で言えば、書店の流通経路で埋もれて目立たない書物についてこそ、新聞・雑誌の小さな広告スペースでは語れないその書物の価値や同書をよりよく読むための、あるいは、魅力をひきたてる関連情報をウェブで提示してほしいと思う。


というのも、ある本を手にとりたくなるきかっけとは、多くの場合、当該書籍をめぐる文脈から与えられるものだから(もちろんそのほかにもいろいろなきっかけはあれど)。また、そのように情報を編集することで、関連キーワードから参照される頻度があがり、同書との出逢いを必要とする読者に知られうる可能性も高まろうというものだ。


そういう意味で、アセテートのウェブサイトはひとつの模範を示していると思う。


単なる広告とも書評ともちがう、作品とその文脈を提示する編集のスタイル。「いい本なのにさっぱり売れない」とお嘆きの人文書担当編集者のみなさま、貴ウェブサイトにて作品の魅力をよりよく表現してみませんか? もしよろしければ、(適価にて)お手伝いいたしますよ?(やや本気)


編集出版組織体アセテート > 『ビリーのグッド・アドヴァイス』
 http://www.acetate-ed.net/bookdata/005/005.html


ICC > 「E.A.T.——芸術と技術の実験」
 http://www.ntticc.or.jp/Archive/2003/EAT/index_j.html