赤木昭夫『説得力』(生活人新書139、NHK出版、2005/03、amazon.co.jp)#0328


赤木昭夫(あかぎ・あきお, 1932- )氏の新著は、説得力ある話し方を説く一冊。


ゲーム会社で新作の企画を会議にかけるさいに、企画書というものを拵えて配布し、プロジェクターにコンピュータ(『Power Point』など)で作成した資料を表示しながら説明する、ということがある。このさい、作品の内容とターゲットユーザー(買ってくれそうなお客さん)像を明示し、筋が通って企画内容で予定本数がはけることを裏付ける根拠が揃っていればそれでスムースに会議を通るかというとそんなことはない。なンてことは、会社で企画会議に出席したことがある方ならよくご存じかもしれない。


言ってしまえばあるソフトを、開発するまえからそれが何本売れるかだなんてことがわかるわけがない(それがわかればマーケティング指南書は商売あがったりであるし、事後的にヒットした/しなかった作品も、多くの場合は予測の範囲外の出来事である)。それは誰でも知っている。だけれど、企画を承認するためにはその企画が予測されている程度には商売になるかどうかは判断しなくてはならない。


もちろん手をこまねいていても作れば売れるというものではない。現場の作り手の立場からみると、むしろ作ったあとにどう売ってもらえるか(広告やイヴェントの展開、お店にどう並べてもらえるか)のほうが問題だったりする。そしてどう売ってもらえるか、関係者に動いてもらえるかということは、企画の説明に大きくかかっている。単に企画の承認を目指すことのみならず、関係者に「これならいけそうだ」とか「この内容ならああしてこうして」という絵を描かせることも、企画説明の目的のひとつである。


このとき重要になるのが「説得力」だ。正しい(と思う)ことを述べれば人がついてくると思うのは正しくない。会社にはいったばかりの頃、私はこのことがわからなくていろいろな失敗をした。失敗をするうちに遅まきながら感得したことは、人は、正しいかどうかよりも、正しいと感じられるかどうかを重視しているということだった。自分が正しいと思っていることを、正しいと感じてもらえるようにするには、表現つまり問題はプレゼンテーション(表現)が重要になる道理。といってももちろんこれは詭弁のすすめではない。


本書は、そうした表現に必要な説得力をいかに涵養するかを説いている。目次は以下のとおり。

第一章 説得力をきめるのは初めの十五秒
コラム 説得術の伝統
第二章 ビジネスマンに求められる説得力——社長の前で企画を通すには
コラム レトリックの退場と復帰
第三章 ハリウッド裁判映画に学ぶ説得力——百の論よりもひとつの証拠
コラム ドラマティックとは
第四章 ディスカッションをリードする説得力——良い意味の政治力とは何か
コラム 間と持続
第五章 一時間の話をするときの説得力——うまく話すための一〇カ条
コラム 説得における嘘を見破る
第六章 説得力を高めるための要素——説得力とは何かをよく知る
コラム ソフィストデマゴーグ
第七章 相手の心をつかみ納得させるには——対面説得の利点を活かす
あとがき
参考文献