エドマンド・スペンサー『妖精の女王 1』(和田勇一+福田昇八訳、ちくま文庫す16-1、筑摩書房、2005/04、amazon.co.jp)#0367
 Edmund Spenser, The Faerie Queene (1590-1596)


イギリス・ルネサンス期の詩人エドマンド・スペンサー(Edmund Spenser, 1552?-1599)がエリザベスI世にささげた寓意叙事詩。中世イギリスを舞台にアーサー王子と騎士たちが活躍する一大絵巻。全12巻の叙事詩として構想されながら、第6巻と未完の第7巻で途絶している(第1-3巻が1590年、第4-6巻が1596年、第7巻が1609年)。書名は従来『神仙女王』とも訳されてきた。


巻頭の口上でスペンサーが述べていることを少しばかり引いておこう。スペンサーは寓意があやまって解釈される危険をわきまえているから、意図を明確にしておきたいと前置きしたうえでこう述べている。

全巻を通じます主要な目的は、紳士、即ち身分ある人に立派な道徳的訓育を施すことにあります。そのためには、大抵の人が、修養の例え話としてよりは、筋の変化のために喜んで読む歴史物語に潤色いたしますれば、最も納得しやすく楽しいはずと考えまして、アーサー王の物語を選んだわけでございますが、それと申しますのも、この人物は、その人格の卓越している点で最も適当と思われ、幾多の先人の書によって有名でもあり、また、現代の人々のねたみと疑惑を招く恐れが最も少ないと思ったためでございます。

(同書、14ページ)


(そういえば、ルクレティウスも『物の本質について』の口上で、エピクロスの自然にかんする説を叙事詩の糖衣につつんできかせるというスタイルをとります、って言っていたなァ〔ただし岩波文庫版では無情にも(?)散文で訳出されていましたが〕)


そのうえでスペンサーは、自作がホメロスウェルギリウスアリストテレス、クセノフォンらの顰にならったものである旨を縷々説明する。


こちらは豪華版
本書は、1994年に筑摩書房より刊行された豪華本を四分冊で文庫におさめるもので、訳者の説明によると、文庫化にあたってさらに訳文に手を加えているとのこと。


スペンサーがこのようにして手軽に読めるようになるとはうれしい限り。英文学の読者はもちろんのこと、アーサー王物語(これも目下筑摩書房より新訳決定版が刊行中)に関心のある向きやファンタジー小説ファンにもお薦めの一冊。


⇒Renascence Editions > E.Spenser, The Faerie Queene
 http://darkwing.uoregon.edu/~rbear/fqintro.html
 英語原文の電子テキスト