セネカ哲学全集」(全6巻、岩波書店


岩波書店からルーキウス・アンナエウス・セネカ(Lucius Annaeus Seneca, BC0004c-AD0065)の「哲学全集」全6巻の刊行がはじまる。編集に名を連ねるのは大西英文氏と兼利琢也氏。


セネカはローマ帝政初期の政治家・劇作家でストア派の哲学者にも数えられる。政界入りするもカリグラ帝により流刑に処され(41年)、後、小アグリッピーナによって召還され(48年)、ネローの教育係となる。政治家としての腕をふるうとともに相当の蓄財も行ったらしく、タキトゥスに「セネカは清貧以外のすべてを手にいれた」と揶揄されたとか。62年には公職を離れ著述に専念するも、65年のピーソ−陰謀事件(ネロー暗殺計画)関与のかどで自殺を命じられ自害。


残された作品には、本哲学全集におさめられる倫理にまつわる諸作品や自然研究書のほか、九篇の戯曲、つまり、『狂えるヘルクレス』『トロイアの女たち』『メデア』『パエドラ』『オエディプス』『テュエステス』『オエタ山上のヘルクレス』『フェニキアの女たち』がある(以前は十篇が数えられていたが『オクタウィア』という作品は今日偽作と認定されている)。表題からうかがえるとおり、古典ギリシアの悲劇やギリシア神話に取材した作品。


本全集が『全集』ではなく『哲学全集』と題されているのは、これらの戯曲を収録しないためだろう。とはいえ、これらの戯曲は偽作とされる『オクタウィア』を含めてすでに後述の西洋古典叢書『悲劇集』(全2巻、西洋古典叢書京都大学学術出版会)に収録されており日本語で読むことができる。


本哲学全集の構成は以下のとおり。

★第1巻:倫理論集
・摂理について
・賢者の恒心について
・怒りについて
・マルキアに寄せる慰めの書
・幸福な生について
・閑暇について
・心の平静について
・生の短さについて


★第2巻
・ポリュビウスに寄せる慰めの書
・ヘルウィアに寄せる慰めの書
・仁慈について
・恩恵について


★第3-4巻:自然論集/補篇
・自然研究
・アポコロキュントーシス
・断片集
・不幸の治療について
・エピグラム集
セネカとパウロの往復書簡集


★第5巻-6:倫理書簡集
・倫理書簡集


既訳作品には以下のものがある。*1



『人生の短さについて 他二篇』(茂手木元蔵訳、岩波文庫青607-1、岩波書店、1980/11、amazon.co.jp
・『人生の短さについて』
・『心の平静について』
・『幸福な人生について』


『怒りについて 他一篇』(茂手木元蔵訳、岩波文庫青607-2、岩波書店、1980/12、amazon.co.jp
・『怒りについて』
・『神慮について』


「アポコロキュントシス」ペトロニウス『サテュリコン——古代ローマの諷刺小説』、国原吉之助訳、岩波文庫赤122-1、岩波書店、1991/07、所収、amazon.co.jp
ペトロニウスの『サテュリコン——古代ローマの諷刺小説』に、付録「アポコロキュントシス——神君クラウディウスのひょうたん化」として併載されている。


『道徳論集』(茂手木元蔵訳、東海大学出版会、1989/11、amazon.co.jp


『道徳書簡集——倫理の手紙集』(茂手木元蔵訳、東海大学出版会、1992/10、amazon.co.jp


『自然研究——自然現象と道徳生活』(茂手木元蔵訳、東海大学出版会、1993/07、amazon.co.jp


セネカ悲劇集1』(小川正廣+高橋宏幸+大西英文小林標訳、西洋古典叢書L001、京都大学学術出版会、1997/07、amazon.co.jp
『狂えるヘルクレス』『トロイアの女たち』『フェニキアの女たち』『メデア』『パエドラ』を収録。


セネカ悲劇集2』(岩崎務+大西英文+竹中康雄+木村健治訳、西洋古典叢書L002、京都大学学術出版会、1997/09、amazon.co.jp
『オエディプス』『アガメムノン』『テュエステス』『オエタ山上のヘルクレス』『オクタウィア』を収録。


なお、西洋古典叢書には『自然研究』『道徳論集』『道徳書簡集』も収録される予定のようだ。


第一回配本は今月の27日の予定。


岩波書店 > 『セネカ哲学全集』
 http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/092631+/top.html


⇒Intra Text > Seneca(ラテン語
 http://www.intratext.com/Catalogo/Autori/Aut343.HTM
 セネカ作品のラテン語原文

*1:2005/05/09 22:25 wtnbtさんのご示唆をいただいて1点追記しました。コメント欄参照。