『にっぽん三銃士 おさらば東京の巻』(88min, 1972)


48歳戦中派・元帝国陸軍中尉でいまはしがない編集長。小説を書こうと妻子の白い目もいとわず原稿用紙ばかり山のようにもっている・黒田忠吾小林桂樹)。


36歳戦後派・医学博士で助教授とエリートコースはよいものの大学闘争では体制と学生の板ばさみ、家庭じゃ妻の性的欲求を満足させられないつらい男・八木修ミッキー安川)。


24歳戦無派・一流広告代理店の一流会社員。いやな上司の一流社員たれという説教にうんざりしながら退屈な毎日を送る・風見一郎岡田裕介)。


思想も職業も年齢もまったく異なる三人が、デモで沸きたつ東京の片隅でそれぞれにおいつめられて一緒に東京をあとにするまでの一幕を描いた作品。新宿でデモ隊と機動隊が激突する世間の波乱に対応するように、世間からどこか落ちこぼれた三人のはちゃめちゃな一夜を活写する。


アクションや台詞でカットとカットをつないでゆく岡本監督の連想的なモンタージュの気持ちよさはもちろんのこと、世代の違う三人のキャラクターが相互にきわだって見えるところがこの映画の魅力のひとつだと思う。同じ状況を目の前にしてのそれぞれの反応のちがいがいちいちおもしろいのだ。彼らのやりとりも、お互いの言葉に触発された連想ゲームのように展開し、これは一見作為的にも感じられるのだが、実は日常的にごく自然なふるまいであることが感得される。


また、三人の言葉づかいの違いもさることながら、ところどころにあらわれる活動家たちの特殊な演説語法(「我々はこの事態に際し、断固たる革命への意志を自己の所有するところとなし……」)、それといくらか似ているものの趣はだいぶ異なるフォーク集会に集う若人たちの言葉(「僕たちにはこの場所で集い歌う権利がある」「ナンセンス!」「意義なーし!」)、それと対峙する警察の言葉等々、作品のあちこちで聞かれる異なる調子の言葉の競演は、それだけで(ローカルにではあれ)沸きたつ時代の空気を感じさせ、耳をたのしませるものだ。


劇中の人物が歌う小唄の文句を、わざわざ字幕で表示する小技もそれだけでムショウにおかしいのはなぜか。


原作は、五木寛之の同名小説。


⇒日本映画データベース > 『にっぽん三銃士 おさらば東京の巻』
 http://www.jmdb.ne.jp/1972/cv003130.htm