ジャック・デリダ『声と現象』(林好雄訳、ちくま学芸文庫テ2-6、筑摩書房、2005/06、amazon.co.jp
 Jacques Derrida, La voix et le phénomène: Introduction au problème du signe dans la phénoménologie de Husserl(P.U.F., 1967; Quadrige 156, P.U.F., 1998; 2003)


ジャック・デリダJacques Derrida, 1930-2004)の『声と現象——フッサール現象学における記号の問題入門』の新訳。


既存の訳本としては、原書第一版による邦訳『声と現象——フッサール現象学における記号の問題への序論』(高橋允昭訳、理想社、1970/12、amazon.co.jp)がある。同書には、原書には併録されていないデリダの論文記号学と書記学」(Sémiologie et grammatologie)(1968)もあわせて訳出されている。


このたびの新訳は、デリダによって訂正がはいった第二版によるもので、原書は現在、Presses Universitaires de France の叢書 Quadrige に収録されている(最新は第三版のようだ)。


参考までに、第七章の原文と二つの訳を並べてみよう。


◆原文(第二版、p.98)

Ainsi entendue, la supplémentarité est bien la différance, l'opération du différer qui, à la fois, fissure et retarde la présence, la soumettant du même coup à la division et au délai originaires.


◆理想社版(第一版、p.167)

以上のように解するとき、このような補欠性は、まさしく差延〔la différance〕である。すなわち、現前を根源的な分裂と遅延とに同時に服させることによって、現前に亀裂を生じさせると同時に遅らせもする差延作業〔l'opération du différer〕である。


ちくま学芸文庫版(第二版、p.199)

このように理解されると、代補性〔シュプレマンタリテ〕とは、まさしく差延〔訳註(100)参照〕であり、差延する活動であって、その活動は、現前性〔プレザンス〕に亀裂を入れるとともに遅らせ、同時にそれを根源的な分割と遅延とに従わせるのである。


上記ちくま学芸文庫版では、「差延」の箇所に1ページ強にわたる訳註がついている。


訳の良し悪しというよりは、参照している版も異なり、収録テクストも異なるので読みたい場合は両方参照しておくのがよいと思われる。原書も比較的入手しやすい。