人文書を中心とした書籍情報を満載したメールマガジン「[本]のメルマガ」に、相棒・吉川浩満とともに寄稿させていただきました(いきがかり上、『MiND』の書影掲載の頻度が高く失礼します :-)。


今回の原稿では、『MiND——心の哲学の魅力と、同書が書店のどの棚におかれたがっているだろうかという話、それから、4月初旬に東京は神田の三省堂書店で予定されているブックフェアの予告をさせていただきました。


山本貴光吉川浩満「『MiND』刊行に寄せて」(『[本]のメルマガ』2006.03.25発行、vol.244)
 http://blog.mag2.com/m/log/0000013315/107095592?page=1#107095592


「[本]のメルマガ」は、刊出版社や(元)書店員の有志の皆さんによって1999年5月に創刊。書物と情報が氾濫気味の昨今、毎号、書物とのつきあい方を考えさせられる論考、リポート、エッセイが掲載される充実したメールマガジンです。毎月、5日、15日、25日の3回刊行。



同号に掲載された二宮隆洋(にのみや・たかひろ, 1951- )氏の原稿「回想:出版界の四半世紀」をたいへん興味深く拝読しました。二宮さんといえばぴんと来る方もいるかもしれません。かつて平凡社『中世思想原典集成』「ヴァールブルク・コレクション」ほか、数多の人文書を手がけた編集者です(「[本]のメルマガ」の紹介文によると現在はフリーで編集者をされているようです)。


今回の原稿では、1960年代から70年代の人文系出版界の熱気と仕事ぶりを引き合いにだしながら、現在の出版状況を痛烈に批判しています。一部を引用します。

林〔達夫〕であれ小野〔二郎=晶文社創業者〕であれ、言葉の最良の意味での百科事典的精神(それは、同じく最良の意味でのアマチュア精神である)がその仕事を豊かなものにしていたと思うが、悠々たる博識や専門に囚われない闊達な学際的知性はその後、とりわけ人文書の世界からどんどん失われていった。林あるいは小野の弟子を自称・他称する人物は少なくないが、超えた人はいないし、かえって彼らの凋落がたとえば岩波書店のそれと軌を一にしているのは興味深い。

(前掲文より。ただし〔〕は八雲による補足)


どんどん新たな書物が刊行されるなかで、せめてすぐれた書評なりナヴィゲーター、あるいはいつでも参照できるブックガイドがあればまだしもなのですが、なかなか頼りになる羅針盤と出合い難いのも問題かもしれません。


『New York Review of Books』『London Review of Books』、あるいは『TIMES Literary Supplement』のような量と質を維持した書評空間があればいいのにな、などとつい夢想します。もちろん日本にも図書新聞週刊読書人という現役の書評新聞が二紙ありますが、前記したNYRBやLRBやTLSと読み比べると、いま一歩もの足りなさを感じるのもたしかです。


だなンてことは、このような場所で書物をめぐる駄文(ジャンク)の増大に貢献している愚生が申すことではないかもしれませぬ。


それとは別にちょっと、理想の書評空間というものがどういう場所なのかについて考えてみたいと思いました(また別の機会に)。


⇒New York Review of Books(英語)
 http://www.nybooks.com/


⇒London Review of Books(英語)
 http://www.lrb.co.uk/


⇒TIMES Literary Supplement(英語)
 http://tls.timesonline.co.uk/


脱線しましたが二宮氏の文章で、マニエリスム論の重要文献、グスタフ・ルネ・ホッケ『迷宮としての世界(Die Welt Als Labyrinth: Manier und Manie in der Europäischen Kunst)』の新訳が中村鐵太郎氏によって刊行予定と書かれていました。かつて種村季弘矢川澄子の共訳で刊行(美術出版社、1987; 1990)されながら品切れが続いていた同書の新訳刊行はうれしいニュース。ついでに旧訳版もちくま学芸文庫あたりで文庫化しないでしょうか。



二宮氏についてはもう10年前のものになりますが、幻想文学第46号(アトリエOCTA、1996/02)にインタビューが掲載されています。


⇒哲学の劇場 > アーカイヴ熱 > 「ヴァールブルク・コレクション」
 http://www.logico-philosophicus.net/resource/book/warburgcollection/index.htm


⇒哲学の劇場 > アーカイヴ熱 > 『中世思想原典集成』
 http://www.logico-philosophicus.net/resource/cfmma/index.htm


⇒作品メモランダム > 2005/07/25 > 雑誌の黄金時代
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20050725/p1