あとがき増補版(装幀篇)



本書をつくるにあたって、できたらいいなと思っていたことの一つは、装幀の工夫だった。


日頃、私もさまざまなコンピュータ書やプログラミング書のお世話になっているけれど、なぜかこう、この分野の本にはときめかない装幀のものが多いように思うのだ(これは私が初めてコンピュータ書を手にした四半世紀前からそうだった)。いや別に中身が読めればええじゃないかという向きにしてみれば、頑丈であってくれれば装幀などは二の次でよしとなるかもしれない。


でも、せっかくコンピュータ書をこしらえる機会。できれば、らしくないものにしてみたいと思っていた。


といっても、装幀は編集の瀧澤さんと装幀家の河原田智さん(ポルターハウス主宰)におんぶに抱っこ。私が唯一したことと言えば、瀧澤さんとの打ち合わせ(という名の与太話会)の席で、上記のような曖昧模糊とした要望をお伝えしただけのこと。


ところが(というのもヘンな接続だが)、私がもたもたとプログラムや原稿を書いているあいだにも、河原田さんはノリノリでいろいろアイディアを出してくださっているらしいことが瀧澤さんを経由して伝わってきた。


例えば、本書では、プログラムを学ぶためのサンプル・プログラムとして、「見習い魔道師イーノ最初の受難」というタイトルのゲームを用意している。原稿のなかに、

 こんにちは。わたしは偉大なる魔道師ダーバノのもとで魔道の修行に励むイーノです。まだ師のもとで修行をはじめて三年。五十でひよっこと言われる魔道の世界では、まだまだ青二才もいいところ。師からは来る日も来る日も「しっかり勉強せい」と叱り飛ばされています。


だなンて書いておいたところ、河原田さんはここからイーノ君というキャラクターのイラストを起こしてくださったという。見れば、「そうそう、そんな雰囲気」という風貌で、頭の中を覗かれたのだろうかと思うようなできばえにびっくり(帯に印刷されているのもこのイーノ君です)。


書物そのものの設計も、せっかくなら魔法書をイメージしてはどうかというアイディアからはじまって、このようなかたちに至った。カヴァーを外していただくと、そこにもひと手間がかかっていることがおわかりいただけると思う。


細かく挙げていけばきりもないけれど、各ページにもいろいろな工夫が凝らされている。私がWordで書いた味も素っ気もないページが、書体の選択やレイアウトによってこうも変わるのかと、書容設計の技には毎度驚きを禁じえないことの一つだ。『心脳問題』朝日出版社、2004、ISBN:4255002770)のときも、編集の赤井茂樹さんや装幀の有山達也さん、イラストのワタナベケンイチさんたちの創意と技で、著者たちが思ってもみなかった物質としての書物が現れたときの新鮮な驚きをいまでもよく覚えている。つくづく書物制作はバンド活動のようなものだと思う。


と、なんだか自著自賛のように見えるかもしれないが、そうではなくて自分の作品ならぬ装幀を礼讃しているのであった。


次回は(まだ続く!)、06月01日のエントリーにコメントをくださったすがやみつる先生のこんにちはマイコン小学館、1982、ISBN:B000J7IP74)と本書の関係について述べてみたい。


⇒polternhaus > 2008/05/23
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