読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

むしろなぜそのような写真が撮れたのかを知りたい



大竹昭子編著『この写真がすごい2008』朝日出版社、2008/07/10、ISBN:4255004390
或るとき、或る場所で、或る角度と距離から、被写体の一瞬を固定すること。写真を眺めるつど、この一枚は(理念的には)ほとんど無限に可能であるはずの写真のなかの、よりによってこの一枚なのだな、という感慨を抱く。第一、どんな写真であっても、余計な加工を加えるのでない限り、二度と同じようには撮れないものだ。


そんなこともあってか、写真を見ると、フレームで切り取られた対象が喚起する印象もさることながら、(鏡を撮るなどの場合を除いては)そこには写っていない撮影者の存在がいつも気になってしまう。そして、この両者を想像させるところに写真の力があるのではなかろうか、などと素人ながら思ったりもする。


このたび朝日出版社から刊行された写真集『この写真がすごい2008』は、そのような意味でもまことに眺め飽きない一冊。


この本には100枚の写真が収められている。編著者である大竹昭子さんがこの1年のあいだ(2007年ということだろうか)に目にした写真から、「すごい」「おもしろい」「見飽きない」という観点でピックアップした100枚だという。


プロやアマチュア、発表媒体などを問わず、ともかくすごいと感じた写真を並べたという潔さがいい。それぞれの写真には、大竹さんのコメントがついているばかりで、撮影者などの情報は巻末にあるので、そのつもりで見なければ誰がいつ撮影したものかはわからない、という造り。いわば、文章の執筆者名や絵画の画家名、映画の監督名を伏せるようなものだが、これがおもしろい。


得意げに変なポーズをとっている男子、寝ているカンガルー、ミニチュアのような競馬場、歴史的報道写真の再現、なんとも言えない状況で酒を飲むおじさんたち、巨大なカエル、工場、ヴィデオテープが積み上がった老人の部屋……


私の貧相な言葉では、到底その圧倒的な表現の力をお伝えすることはできないが、いずれの写真も、いつか誰かがどこかでカメラのシャッターを切った結果得られたものだという当たり前のことが、いかに得難いものであるかと考えさせられるものばかりだ。簡単に言えば、「いったいどうやってこんな写真を撮る状況にいあわせたのか?」と、撮影者の一人一人に訊いてみたくなる、そんな写真のオンパレードなんである。また、こうして匿名的な状態で見ていても、「あ、これはあの人だ」と、撮影者の「署名」が見えてくるものもあって、いったいなにがそうさせるのかと考えさせられる。


こんなに面白いものを一人で楽しむのはもったいないと、さっそく教えに行っている専門学校の講義で見せてみた。学生たちの反応はよく、ちらりと見せた数枚から刺激を受けて、その写真を見る直前まで考えてもみなかったことを、あれこれ想像した様子。写真は、その文脈を自ら語ることがない分だけ、その余白を見る者に埋めるよう触発するところがある。私がいま教えているのは、ゲーム・デザインだけれど、なんらかの創作に携わる人であれば、写真が備えているこうした力を活用しない手はないのではないか、と思う。


一つだけ注文をつけるとしたら、写真に添えられた言葉だろうか。これはもはや好みの問題ではあると思うが、まずは写真を、ただそれだけを100枚並べてみてもよかったのではないかと思う。やはり言葉は、写真の意味を縁取るというか、限定する方向で作用してしまう。まずはじっくり写真から連想させられることを愉しみたい向きにとっては、この言葉がちょっと邪魔になる。


さりとて、それがなにを写したものであるかは気になるわけで、言葉がまったく不要かといえばそうではない。また、評者がなにを思ってそれを選んだのかも、もちろんおおいに興味があるところ。そこで、巻末のコンタクト・プリント版のような写真の一覧に、これらの言葉を添えてはどうだろうか。写真をゆっくり眺めたあとで、気になる読者はそれを読めばよいという寸法。もっとも、そうしたい読者は敢えて言葉を読まずに写真のページだけを眺めるという見方もできるわけだが。


ともあれ、選者に「すごい」と言わしめた写真の数々は、それぞれにまったく質の異なる驚きを感じさせるすごいものばかりだった。書名に「2008」とあるところを見ると、この企画、来年以降も続くのかもしれない。やりようで、さまざまなヴァリエーションでの展開も考えられると思うので、ぜひ続けていただければと思う。


寄藤文平さんと篠塚基伸さんによる装幀は、「ここに君のすごい一枚を貼っておくともっと楽しいよ」といった誘いかけをするような矩形が描かれている。


朝日出版社 > 『この写真がすごい2008』
 http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255004396/


⇒AOYAMA BOOK CENTER > EVENTS > 大竹昭子×穂村弘スライドトークショー これが私の「すごい写真」
 http://www.aoyamabc.co.jp/10/10_200807/20082008713.html
 本書の出版記念イヴェントが、07月13日に青山ブックセンターで開催されるようです。