季刊誌『考える人』2009年夏号(新潮社、ISBN:B002DMI7WQ)が刊行されました。特集は「日本の科学者100人100冊」です。


 今回は、企画のかなり早い段階からお声かけいただいて、100人100冊選定のお手伝いなどをしています。


 探究すればいくら誌面があっても足りないテーマですが、今回この特集に参加するにあたって、私の心づもりとしては、必ずしもよく知られているとは限らない日本の科学について、その幅広さや多様性を実感できることを目指してみたいと考えました。


 思えば、私たちは文学史や歴史に登場する人物はそれなりに知っているのに、こと科学者となると、ノーベル賞受賞者や、偉人伝で知られる著名な科学者を除くと、あまり知らないような気がします(気のせいならよいのですが)。もっとも、高校までの科目で、科学史自体がきちんと扱われていないのだから、無理のないことかもしれません。


 しかし、資料の山に分け入ってみると、実際に日本という場所で営まれてきた科学やそれに類する営みは、文学史や歴史にも劣らない厚みをもってなされてきたことが見えてきます。


 科学は、自然やその現象について普遍的な知識の獲得と応用を目指す学問なのだから、日本という場所にことさらこだわる必要もないのではないかという考え方も一方にはあると思います。他方で、そうはいっても科学といえども、必ず或る時代の或る場所で、或る社会的・文化的背景のなかで営まれるものであることもまた事実です。


 今回の特集では、日本という場所に焦点を当てて、この風土に根ざしながら、どんな問いにとりつかれた科学者たちが現れたかということも見てみたいと思いました。


 というわけで、特集の紹介です。


 「日本の科学がたどってきた300年」という拙文では、特集のイントロダクションとして、江戸・明治を視野に入れた日本科学史の流れを、ごく大まかに描いています。100人100冊の背景にある文脈を、少しでも概観できたらという狙いです。


 特集の本篇とも言える「日本の科学者100人100冊」では、数学、天文学、地球科学、物理学、化学、博物学、生物学、農学、人類学、医学、精神医学、心理学、工学、科学哲学、科学史といった各分野から、100人の科学者を選び、彼らが書いた一般向けの書物や評伝を中心として、1人につき1冊の書物を紹介しています。


 執筆者も多様で、科学者と執筆者の組み合わせも楽しんでいただければと思います(94ページに執筆者の一覧がありますので、気になる方は書店でご覧あれ)。今回、私からは、竹中朗さん、芹沢一也さん、村田智子さんに原稿をお願いして原稿を寄せていただきました。


 私はそのうち、以下の34人分を執筆しています。

 渕一博、桜田一郎、八木秀次、木村資生、三澤勝衛、遠山啓、吉田光由、三上義夫、小倉金之助、弥永昌吉、一戸直蔵、岡田武松、藤原咲平、田中阿歌麿、辻村太郎、仁科芳雄長岡半太郎、本多光太郎、石原純山階芳麿宇田川榕菴伊谷純一郎中西悟堂白井光太郎福岡正信、木原均、浜田青陵、富士川游、北里柴三郎、吉田富三、森田正馬、湯浅年子、河合隼雄今西錦司


 また、上記の紹介とは別に「私の考える「日本の科学者」」と題して、5本のエッセイがあります。そのうち福澤諭吉と科学」という文章を書かせていただきました。


 中村桂子さんと池内了さんの対談「科学者にお茶の時間を」では、(ほとんどなにもしていませんが!)同席してお二人のお話を聞いています。この他、福岡伸一さんと養老孟司さんの対談「見えるもの、見えないもの」も掲載されています。


 今回、科学史家で蘭学の時代』中公新書、1980、ISBN:B000J8275E)の著者でもある我が師・赤木昭夫先生からは、対話を幾度も重ねるなかで多大なる示唆を賜りました。ここに記して感謝の意を表したいと思います。


 また、イントロダクション原稿に記したことのうちには、今回、明治賢人系科学者を一手に引き受けていただいた、武蔵野人文資源研究所所長・竹中朗さん(id:aquirax)が主催する明治賢人研究会などの場を通じて、氏から教えていただいたことも活かされているはずです。ありがとうございます。


 誌面では紹介しきれなかった書物などについて、この場で言及していければと思ったりしておりますが、例によって口だけかもしれません。


 今度は別の場所で、人文学について考える連載なども予定しておりますので、目下メールマガジン「αシノドス」で連載中の「思想」をめぐる探究とともに、今回の日本の科学の件ともども、いま取り組んでいる「新たなる百学連環」プロジェクト(学術の五千年史を見取り図にする試み)につなげていきたいとも思っています。


 なんだか最後は大風呂敷になりました。


⇒新潮社 > 『考える人』
 http://www.shinchosha.co.jp/kangaeruhito/mokuji.html


⇒新潮社 > 『考える人』 > 「特集 日本の科学者100人100冊」その1
 http://www.shinchosha.co.jp/kangaeruhito/high/high126.html