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ゲームの概要を言語化する


 今年は、専門学校や大学での講義について、折々どんなことをしているのか、拙ブログでも述べてみようと思います。


 火曜日は、「ゲーム企画」「ゲーム史」という講義を担当しています。ゲーム企画は1年生向けの講義で、ゲーム開発全般について、その流れやその際必要なことなどについて解説しているところです。これまでゲーム開発をしたことのない学生の皆さんに、まずは大まかな流れを知っていただくところからスタートです。



 ゲーム史は、1年生の企画者向けの講義です。学校に要望して、設定していただきました。狙いは温故知新です。古きを知らなければ、新しいものはつくりようがないという、とてもシンプルな考え方から、ゲームの歴史を学ぼうという次第。


 少し考えれば分かるように、「新しい」ゲームをつくりだすためには、それが「新しい」ことを自分なりに自覚する必要があります。しかし、ことの性質上、そもそも自分が思いついたアイディアが「新しい」ものであることを確認するには、これまでにつくられたゲームのなかに、そのアイディアが実現されているかどうかが問題となるわけです。どれほどよいアイディアであっても、既につくられているものであれば、それは少なくとも「新しくはない」わけです。


 誤解なきよう申せば、もちろん、ゲームの価値は「新しさ」だけで決まるわけではありません。しかし、どうせいまからこしらえるのなら、something newであって欲しいというのは、創作の姿勢としてありだと思うのです(じつは、なにをどうこしらえたって、やりようによっては必ず「新しい」ものができあがるとさえ考えていますが、それについてはまたいつか)。


 そこで、そろそろ40年になろうかというコンピュータ・ゲームについて、エポックメイキングとなった作品を中心に、それはどのようなものかを見てみようというのが「ゲーム史」の狙いです。



 今回は、ナムコ(現・バンダイナムコ)が1980年に発表したアーケードゲームパックマンを題材に選びました。後にPlayStation用に発売されたナムコミュージアム vol.1』所収の移植版を用います。


 まず、学生にゲームそのものをプレイしてもらいます。私のようにスペースインベーダータイトー、1978)からこちら、コンピュータ・ゲームにどっぷり浸かっているならまだしも、いま専門学校に来る学生の多くは、1990年代生まれでありますから、『パックマン』より若い計算です。中にはプレイしたことがない学生もいます。そこで、何度か実際にプレイするわけです。


 プレイした後で、まずは「それはどんなゲームか」ということを記述してみます。コンピュータ・ゲームを、言葉だけで記述してみるトレーニングです。


 これは、ゲームを企画する立場としては、とても重要な訓練です。なにしろ、ゲーム企画者は、その名の通りゲームを企画する立場です(中には企画しない企画者という不思議な存在もありますが)。企画、つまり、「こんなゲームをつくりたい」というアイディア(着想)は、自分の頭の中に生じるものです。自分一人で全部こしらえるならともかくとして、チームで分業しながらつくる場合には、その脳裏にあるゲームを、目に見えるように表現する必要があります。


 そこで、既存の目の前にあるゲーム、自分で触って仕組みを確認できるゲームについて、まずはその概要を言語化してみるところから始めます。しかも、なるべくシンプルなゲームから試します。


 まず、5分くらいの時間で、一人一人に『パックマン』の概要を書いてもらいます。そして、二人一組に分かれて、お互いの概要を説明しあい、今度は二人の智恵を出し合って、これ以上うまい概要の書き方はない、という状態まで練り上げます。時間は10分です。



 その結果、考えられた概要をホワイトボードに書いてもらいます。今回の企画者は8人いますので、4チーム分の概要がホワイトボードに書かれることになります。どのチームもおよそ60文字から70文字で書いていました。この四つの概要を使って、私のほうであれこれ確認をしてゆきます。


 4チームとも、一つとして同じ概要はなく、みな着眼点が違っています。ゲームが終わってしまう条件(ゲームオーバー条件)を書いているチームもあれば、書いていないチームもある。ゲームクリア条件を書いているチームもあればそうでないチームもある。そもそもプレイヤーは何を操作するのか(ゲーム内でなにとして活躍するのか)を書いていないチームもあったり、パックマンがドットを「食べる」のか「集めるのか」といった表現について意見が分かれたりと、実にさまざまです。


 面白いことは、こうして書き並べてコメントしながら比較していくうちに、学生の皆さんも、自分たちが「これでよし」と思って書いた概要が、不十分だということをだんだんと自覚するということです。中には、登場するモンスターの数を明記したほうがよいかどうかで意見が分かれたりもしますが、これは別段唯一の正解が存在するような設問ではありませんので、そこはそれ。


 肝要なことは、概要を記すということで、一体何をすることになるのか、ということです。つまり、概要を記すということは、対象物(ここでは『パックマン』)の全体や詳細を記すのではなく、あくまでもそれがどんなものであるかを手短に書くということです。言い換えれば、概要を記すということは、対象の全体から、なにかを選ぶと同時に、なにかを捨象することです。では、なにを取り、なにを捨てるのか。これがモンダイです。


 そして、なにを取り、なにを捨てるか、というところに、その書き手の考える『パックマン』像が現れます。さらに言えば、取捨選択以前に、『パックマン』というゲームから、そもそも何を見てとれるかということが問われもするわけです。


 したがって、このトレーニングでは、次のようなことを実践することになります。

 ・ゲームをプレイする。
 ・ゲーム全体を可能な限り隈無く見てとる。
 ・見てとったことから、そのゲームの「本質」を抽出する。
 ・抽出した本質を言葉で記す。


 ですから、「ゲームをプレイする」といっても、ただ普通に遊ぶのではなく、ここに書いたようなことをしようというつもりで触るわけです。


 まずはこんなふうにして、或るゲームに触れたとき、それはどのようなゲームなのか、ということを観察し、考え、記せるようになるためのトレーニングから始めています。もちろん、このトレーニングは、以後、学生の皆さんが、誰から言われなくても、自分で実践し続けることが期待されているわけです。


 今回ご紹介した、「概要」を言語化するという訓練は、ゲーム以外の対象を扱う場合にも有効です。


⇒東京ネットウエイブ
 http://www.tnw.ac.jp/


PACMAN WEB
 http://pacman.com/ja/