科学のアンソロジーを考えてみる(2)


「科学のアンソロジーを構想する」という空想企画について、つらつらと考えています。


ここで「科学のアンソロジー」と言う場合の「科学」には、もっぱら二つのものが含まれています。


第一は、近代以降「科学」と呼ばれるようになって独立した学術の領域で、これについてさしあたり「科学」と呼ぶことに、あまり大きな問題はないでしょう。


第二は、そうした近現代的な意味で「科学」という言葉が生まれ、普及する以前の世界において、現代の眼で見ると「科学だ」と言いたくなるような営みです。言ってみれば、近代以後に確立された概念を、時代錯誤的に(アナクロニッックに)過去に対して適用した場合の「科学」も含むという意味であります。


もっともこれは、ことさら断らずとも、いわゆる科学史の書物を繙けば、そこかしこに同様の話が出ていることでもあります。ただ、その場合、「科学」というものがなにか現代と同じように、その学術だけで独立して或る人物によって営まれたと考えてしまわないようには気をつけたいとも思います。つまり、かつて「科学」とは、「哲学」の一部でもあり、哲学に含まれていた他の諸領域とともにしばしば一人の人物によって営まれていることがあったわけです。


さて、そうした意味で「科学」とみなせる営みに従事した人たち(現在なら「科学者」)が書き残した文書そのものを、要約ではなく、その筆遣いも含めて読めるようなかたちで、集め、編むとしたら、どんな書物ができるだろうかと考えているのでした。


これには、いくつかの重要な先例があります。日本語で読めるものとして、直ちに想起されるのは、朝日出版社から刊行された「科学の名著」です。


この企画は、もともと全50巻という規模で計画されていたといいます。実際には途中で終わってしまいましたが、それでも刊行された巻には、いまでもそれでしか読めない文章もあり、大変貴重な叢書です。


今日は、当初その50巻がどのように予定されていたのかということを見ておきたいと思います。第5巻「中世科学論集」(第I期全10巻の1冊)に挟まれているアンケート葉書には、「第II期以降の刊行順はまだ確定しておりません」と断りを入れたうえで、次のようなリストが掲げられています。

01 インド天文学・数学集
02 中国天文学・数学集
03 ベイコン
04 近代生物学集
05 中世科学論集
06 ニュートン
07 ギルバート
08 イブン・シーナー
09 アルキメデス
10 パスツール


11 古代原子論集
12 ヒポクラテス
13 アリストテレス
14 エウクレイデス
15 古代天文学
16 ギリシア錬金術
17 プリニウス
18 ヘロン
19 ガレノス
20 インド医学集
21 中国科学・技術集
22 中国医学
23 アル・フワーリズミー
24 イブン・アル・ハイサム
25 レオナルド・ダ・ヴィンチ
26 コペルニクス
27 パラケルスス
28 ヴェサリウス
29 ガリレイ
30 ケプラー
31 ハーヴィ
32 デカルト
33 ボイル
34 ホイヘンス
35 ライプニッツ
36 ビュフォン
37 ラマルク
38 ドールトン
39 ファラデー
40 近代数学成立集
41 近代力学成立集
42 ライエル
43 近代化学集
44 ラヴォアジェ
45 ダーウィン
46 ベルナール
47 メンデル
48 メンデレイエフ
49 熱学集
50 近代医学集


しばらくのあいだ、こうした前例で、どんな書物や論文が扱われてきたかということを、並べて比較しながら見てゆきたいと思います。


こうした書目を複数並べてみることで、「科学史」を形成する仕事として、どのようなものが念頭に置かれているのかということも見えてきたらという底意地もあります。また、そのなかで、現代において「科学」に分類される営みの諸領域が、どのように分けられているのかといったことも確認してみたいところです。


これについては、のんびり進めて参ります。


⇒哲学の劇場 > 「科学の名著」書誌
 http://www.logico-philosophicus.net/resource/book/kagakunomeicho/index.htm


朝日出版社
 http://www.asahipress.com/