映画・X線・精神分析



月曜社の「芸術論叢書」の二冊めとなる最新刊は、リピット水田堯氏の Atomic Light (Shadow Optics) (University of Minnesota Press, 2005, ISBN:0816646112)の全訳『原子の光(影の光学)』(門林岳史+明知隼二訳、芸術論叢書、月曜社、2013/05、ISBN:4865030026)。


「一九世紀が生み出した「内面の技術」」たる、映画、X線精神分析を手がかりに、「見えること」と「見えないこと」、「潜んでいるもの」と「顕わになっているもの」を手がかりとして、映像とそれが見られるという経験に迫ろうとする論考。


私自身は、まだ全体を一望したうえで、巻頭の「0 諸々の宇宙」を繰り返し読んでいるところ。著者が編み上げた連想の糸を、どのように読み解いたらよいかと考えながら。


目次は以下の通り。

日本語版への序文
謝辞
参考図版(日本映画)


0 諸々の宇宙
耳なし芳一」――盲目性と不可視性――外記――原子的な破壊と幻の視覚性――破滅的な光、日本の視覚文化――ホルヘ・ルイス・ボルヘス「バベルの図書館」(一九四一年)――普遍的な図書館と秘められたアーカイヴ――記入されなかったものと記入不可能なものの痕跡――「あなたの死の本当の物語」――原子論――影のアーカイヴ――ジャック・デリダ『アーカイヴの病』(一九九五年)――異種混交性と精神分析――アーカイヴ不可能なものの宇宙


1 影のアーカイヴ(秘密の光)
「秘密は、アーカイヴの灰自体である」――ジークムント・フロイトモーセ一神教』(一九三四−一九三九年)――「光のもとへ」――「神の影」――隠匿と偽名――谷崎潤一郎『陰影礼讃』(一九三三−三四年)――照明とアーカイヴ――「手垢の光」――上方から降りてきた放射が熱病のように身体を襲う――灰燼と原子的な書記――薄膜状の表面――X線と映画、深遠な表層性――秘かな視覚性――没視覚性――映画=灰燼化


2 没視覚性の諸様態――精神分析 - X線 - 映画
「イルマの注射の夢」――諸々の夢の秘密と秘められた夢――無形性と内面性――「可視的なもののなかにある不可視的なもののまさにその不可視性」――ヴィルヘルム・コンラート・レントゲン――ベルタの手、X線――裏返し――影の書記=X線写真術――貫通する光とヴィジブル・ヒューマン・プロジェクト――破壊的な視覚性――記念日、黙示録――x記号――映画の夢――範例的デザイン


3 映画の表面デザイン
「運動の心理学」――初期映画、不可視なものを可視的にすること――リュミエール兄弟、スクリーンの表面――想像的な奥行き――「空間を飲み込む見えないエネルギー」――スクリーンと転位された衝突――「架空の乗車」――生と死の不可視の閾――「形而上学的表面」(ジル・ドゥルーズ)――ジェイムズ・ウィラムソン『大飲み』(一九〇一年頃)――全面的な可視性――意識の外表面――ファンタスム


4 原子的痕跡
「純然たる恍惚によって融けてしまった眼」――無色性――憤怒に満ちた原子の光――透明人間――光学的な密集と分散――放射能の諸々のアレゴリー――不可視性と透明性――H・G・ウェルズ(一八九七年)とジェイムズ・ホェール(一九三三年)の『透明人間』――「真黒な空洞」――無人種性――想像不可能な破壊、破滅的な光――写真的彫刻――顔と表面、顔を欠いていること――ラルフ・エリスン『見えない人間』(一九五二年)――インヴィジブル・マン、「超可視性」――「歴史の外側」――原子的かつ解剖学的――空間を欠いたイメージ


5 外記/反書記
モーリス・メルロ=ポンティ、「ある種の交差」――絵画と普遍的イメージ――谷崎における日本的な皮膚、それは闇を放射する――「輝く影」――闇の書記――原子的、没トポス的――井伏鱒二『黒い雨』(一九六五年)――液状の原子力の灰――内面化した世界――乳濁、「混和しえない混合」――マルグリット・デュラスアラン・レネヒロシマ・モナムール』(一九五九年)、灰燼と雨――原子的な文彩、皮膚に書くこと――溝口健二雨月物語』(一九五三年)、焼き焦がす表面――諸々の印象――「泣くことを運命づけられた眼」――小林正樹『怪談』(一九六四年)、不可視の身体――諸感覚の撹乱――デモンタージュ――破滅的総合――反図像=反書記――勅使河原宏砂の女』(一九六四年)――身分証明書――液状の砂漠――午前八時一五分――砂からの水――平滑なアーカイヴ


6 幻の治療――不明瞭と空虚
心的な視覚性と転移した内面性――是枝裕和幻の光』(一九九五年)――「きれいな光」――記憶と夢、幻聴的な声――諸々の通過と線――影の光学――黒沢清『CURE』(一九九七年)――「x」――「俺自身は空っぽになった」――外側から回帰する記憶――ロジャー・コーマンX線の眼を持つ男』(一九六三年)――原子的視覚――空っぽを撮ること――メスメリズム――内面性の欠如によって構成された内面性――割礼、秘かな切断――治療/治療すること――暗い世界――「視界を欠いた視覚」、映画の終焉における視覚機械――宇宙


訳者あとがき
索引


「芸術論叢書」の既刊に、イヴ=アラン・ボワ+ロザリンド・E・クラウス『アンフォルム――無形なものの事典』(鍛冶屋健司+近藤學+高桑和巳訳、月曜社、2011、ISBN:4901477781)がある。


月曜社
 http://getsuyosha.jp/kikan/isbn9784865030020.html