セールの地図帳



清水高志ミシェル・セール――普遍学からアクター・ネットワークまで』白水社、2013/11、ISBN:4560083355


取り扱うテーマの「百科全書的な」と形容したくなるような広がりといい、議論に用いられる鍵概念といい、ミシェル・セール(Michel Serres, 1930- )という人は、たいそう気になる人物でありながら、著書を繙くたび(もっぱら当方の理解不足もあって)なにを言おうとしているのか、よく分からなくなることが少なくない。


本書は、セールの多様な仕事の軌跡を、『生成』『自然契約』『ライプニッツのシステム』『干渉』『パラジット』『作家、学者、そして哲学者は世界を一周する』といった著作を柱としながらその勘所を読み解き、後続する思索家たちへの影響や応答も視野に入れてマッピングした書物である。


通読するというよりは、この本を一節ずつ読んでは、改めて疑問をまとめ直し、それからまたセールの当該著書に戻り、場合によってはその大本にある議論を辿る、ということをしているので、なかなか先へ進まないのだが、おかげで自分がなにを飲み込めずにいるのかということが分かってきたように思う。先達がつくりおいてくれた地図のありがたみが身に沁みる読書であります。


■目次


登場する鍵概念を見渡せるように、詳細な目次を掲げておこう。

プロローグ――略伝と展望
暴力と科学――哲学に目覚める
エコール・ノルマル、形成期
世界的な活躍のころ
後続世代への影響――情報論からアクター・ネットワークまで
今日のセール


第1部 人文学・美学


第1章 『生成』
多なるもの、一なるもの
ノワーズの轟き
「あるがままの多」に耳を傾ける
裸身の多
イクノグラフィ
相互包摂と往還
統一か多様性
共-可能性
ネットワークと往還――シャトル(杼)の理論
はじまりの偏在
匿名性と普遍の美
暴力について
三機能とスケープゴート
怒り【ヒュルール】
脱出


第2章 『自然契約』
不可視な場所――自然という問題
自然、この両義的なるもの
主体的暴力と客体的暴力
人間プレート
いたるところにある存在
知の対象と学者たち
知とフェティシズム
準-客体論からアクター・ネットワークへ
恋人たちとリンゴ
紐帯――自然と人間の契約


第2部 エピステモロジー


第3章 『ライプニッツのシステム』
多様な構成法
複線的思考
結節点と可逆性
「折り返し点」としての対象
ループと網の目
動く焦点


第4章 『干渉』
連続体としての百科学
特殊性はまた普遍性である
多重な相互性
科学的認識の三段階
固体という対象――可塑性をめぐって
インターセプト
包摂関係のねじれ――質料形相論、コーラ


第3部 人類学


第5章 『パラジット』
追いやられるもの
腐敗、交換、蓄積
疎外と寄食
寄食者の帰還
ジョーカーとしての寄食者
腐敗の秘蹟
暴力と豊穣のあいだ
饗宴――言葉と物の交換


第6章 『作家、学者、そして哲学者は世界を一周する』
デスコーラとその四類型
「寓話」の起源
トーテミストでアニミスト
パースペクティヴについて
方法としてのイクノグラフィ
メイヤスーの相関主義批判
実践家と理論家――二人のライプニッツ
ナチュラリズム、閉じたループ
記憶の場所たち
混淆と越境――セールの方法とその可能性


補論 『結合法論』におけるライプニッツ


あとがき
ミシェル・セールの軌跡[一九三〇― ]
索引


■書誌


書名:ミシェル・セール――普遍学からアクター・ネットワークまで
著者:清水高志
編集:中村健太郎
装幀:小沼宏之
発行:2013/11/30
版元:白水社
定価:3000円+税
頁数:296+vi


■関連文献


清水高志『セール、創造のモナド――ライプニッツから西田まで』(冬弓舎、2004/04、ISBN:4925220101
清水高志『来るべき思想史――情報/モナド/人文知』(冬弓舎、2009/04、ISBN:492522025X
★千葉雅也+清水高志「ポスト・ポスト構造主義のエステティクス」(『現代思想』2014年01月号、青土社ISBN:4791712730、所収)


■関連リンク


白水社 > 『ミシェル・セール
 http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=08335