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東京工芸大学での二つの講義「ゲーム学I」と「シリアスゲーム論」は本日が最終回だった。


「ゲーム学I」では、そもそも「学問」とはどういうことかという検討から始めて、ゲームそのもののメカニズムを分析・記述することと、ゲームで遊ぶ際にプレイヤーの心中で生じることを観察・記述すること、言い換えれば、ゲームそのものとそれで遊ぶ人間について考えることを中心に取り組んだ。予定ではその上で、文化におけるゲームについて、つまりゲームの位置や価値について考察するはずだったが、これは時間切れで十分に果たせなかった。


シリアスゲーム論」では、前半を主に講義に充てて、シリアスゲームとはいったいどういうものを指すのか、その発想と機能はいかなるものなのか、ということを考えた。そのうえで、各参加者にシリアスゲームの企画を発案し、企画書に表現してもらった。この企画書から、各参加者が制作したいものを選んでいただいて、後半では実際に開発に取り組み、最終回にテストプレイと相互評価を行って終わった。



先だっては別件のためにテリー・イーグルトンの『文学とは何か』(大橋洋一訳、岩波書店ISBN:4000028685*1を再検討した。そこで(いまさらながら)思ったのだが、イーグルトンが文芸批評や美学その他についてしばしば論じている「イデオロギー」という観点は、シリアスゲームを考えるうえでも重要であるはずだ*2


というのも、シリアスゲームとは、学習目的を典型として、ただ遊ぶだけでなく、遊びを通じてプレイヤーが現実世界を見る目(とそれにまつわる記憶)を変えようというゲームである。例えば、あるゲームで遊んだ結果、それ以前はさほど気に留めていなかった「橋の構造」に目が行くようになる、という具合に。文芸批評の世界で言われてきた「異化」効果をもたらすのがシリアスゲームである。


だとすれば、そうしたゲームが、どのようなイデオロギーに基づいてゲームのルールやゲーム世界を表現しているかということは、それで遊ぶプレイヤーの記憶やものの見方を左右するだけに看過できない。今回の講義では、この点については充分に検討を加えられなかったことが、反省点の一つである。


などなど、反省すればきりもないことだが、4月のこれらの講義に参加する前の時点と比べて、参加した学生のみなさんのゲームの見方が少しでも変化していたら幸いである。また、今回このような機会をつくってくださった藤本徹先生、そして岩谷徹先生に感謝申し上げたい。


今期は奇しくも、高校生、専門学校生、大学生それぞれを相手にゲームデザインについて考える機会をいただいた。ゲーム開発の経験が長くなるほど(つまり、大学生のように4年を使って学ぶような場合)、あの複雑な過程をそれなりにてきぱきと処理できるようになる一方で、発想の柔軟さという点では高校生たちのほうが圧倒的に柔らかく面白いことを考えるというのが偽らざる実感である。歳を重ねてゆくと、よくも悪しくも知識や経験に縛られて、そこから外れる発想を思いついたり口にできなくなってゆくということだろうか。専門学校生や大学生たちには、ことあるごとに「もっと想像をはばたかせて!」「ただのお題目を唱えるのじゃなくて、具体的に考え尽くそうぜ」「もっと妄想を!」ということを言い続けた半期でもあった。これはたまさか私が接した人たちに特殊なことなのかどうかは分からない。



ついでながら、『ゲームの教科書』(ちくまプリマー新書、2008、ISBN:4480688021)の共著者である馬場保仁君と、今度はもう少し具体的にゲームを分析・設計・経験することについて考えるような続編を書いてみようかと話し合っているところ。ゲームやゲームデザインについて言語化するにあたっては、つくることは当然ながら、教えること(つまり、人前で話し、やりとりすること)が、考えを練り試すなによりの場となる。今回考えたことも含めて、なんらかの形にできたらと念じている。


また、今年で三度目となるプログラマー向けの数学の講義を担当して、同時にゲーム制作に取り組む高校生たちに、そのつど必要な数学について解説するということをしてみて思ったことがある。必ずしも数学を好きではないかれらに「まずはこれを読むといいよ」とすすめられるようなゲームと数学の関係について、基礎や概念の由来から懇切に説くような本が必要だ。ただ、そのつもりで探しているのだけれど、これというものにはお目にかかれずにいる。


ともあれ、これにて学校関連の仕事は一段落した。この夏は、吉川君と進めている共訳書の作業と、いくつかの書籍の執筆や改稿作業に集中したい。


東京工芸大学芸術学部ゲーム学科
 http://www.t-kougei.ac.jp/arts/game/

*1:*目下、邦訳の単行本版は品切れのようだが、近く岩波文庫で刊行されると聞いている。

*2:ゲームにおけるイデオロギーという観点については、サレンとジマーマンの『ルールズ・オブ・プレイ――ゲームデザインの基礎』(拙訳、ソフトバンククリエイティブ)の特に下巻でも集中的に検討されている。