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回顧と展望

work


例によって、だからなんだってなものですが、2014年の回顧と2015年の展望を述べたいと思います。



2014年は、吉川浩満君と共に書いた『心脳問題――「脳の世紀」を生き抜く』(朝日出版社ISBN:4255002770)を刊行してから10年目の年でした。つまり、はからずも物書きになって10年が経った勘定です。


『心脳問題』は、一過性のブームや流行のようなものとは別に、多少の時間の流れによっては風化しないものを目指して書きました。その甲斐あってというべきか、関係者のみなさんのご尽力によって、いまも新刊書として書店の棚に置いていただいているのは、ありがたい限りでございます。同書以来、吉川君ともどもお世話になっている赤井茂樹さんが、朝日出版社を退職されて、新天地へと足場を移した年でもありました。





2014年はまた、目下巷で続々と大評判を獲得中である吉川君の新著『理不尽な進化――遺伝子と運のあいだ』(朝日出版社ISBN:4255008035)と、拙著『文体の科学』(新潮社、ISBN:4103367717)が刊行されるという偶然もありました。


吉川君と私とは、大学時代(1990年)からのつきあいで、「哲学の劇場」(1997- )というウェブサイトを共同運営したり*1、暇があれば喫茶室などで談話をする仲でもあります。同じく大学以来、両者の共通の親友である北村洋君も、今年『敗戦とハリウッド――占領下日本の文化再建』(名古屋大学出版会、ISBN:4815807752)を刊行するという奇遇が重なりました。20年前、大学で馬鹿話をしていた頃には、こんなことになるとは微塵も思っておりませんで、まことに月並みではありますが、不思議な縁であることだなァと感じ入った次第です。




書き物方面では、季刊誌『考える人』の「はじめて読む聖書」特集に基づく『はじめて読む聖書』(新潮新書ISBN:4106105829)が刊行され、同号に寄稿した聖書を読むためのブックガイドも収録していただきました。


雑誌では、『ユリイカ』誌(青土社)の森博嗣特集号で、森さんへのメール・インタヴューを担当する機会を賜りました。インタヴューといっても、私のほうで質問を20ばかり作成して編集部経由で森さんにお送りし、それを読んだ森さんにお答えいただくという形式です。質問者としては、なかなか難易度の高いミッションでした。


なにより、通常のインタヴューのようにやりとりをするわけにはいきませんので、質問して、森さんのお答えを受けて、さらにそれを深めるという手が使えないわけです。つまり、話を振ったり、探ったり、重ねて尋ねたりしながら文脈を共有してゆくといった進め方ではなく、準備する質問にすべてがかかっているのです。


また、森さんは、これまでにファンたちから寄せられた本当にたくさんの質問に答えているので、普通に思いつくような質問については、たいていどこかで語っておられます。


加えて、厖大な著作があります。私は、ある人物について原稿を書いたりインタヴューをする機会があると、原則としてはその人物がつくったものを可能な限りすべて確認してから執筆に臨むようにしています。ところが今回は、締め切りまでの時間が短かったことに加えて(通常の寄稿にかけてよい時間を、質問者と回答者で分け合うわけですから無理もありません)、森さんの著作が100冊単位であり、全てを読んだり確認し直すということはできませんでした。そこで、小説は各シリーズから数冊ずつに留める代わり、エッセイ類は全て読むことにして、質問案を思いつく限り書いてから、最終的に雑誌に掲載された20問に絞るという手順を採りました。


準備のインプットをあらかた終えて質問を練り絞るころには、集中的な森作品の読書によって、脳裡にはいわば森博嗣アルゴリズムみたいなものが稼働するようになっています。そこで、脳裡でぐるぐると想定問答を繰り返します。「あ、この質問は、きっとこういうお答えが来るに違いない。それを踏まえた質問にしなければ……」と、まるで将棋がチェスを打つような状況です。しかも、先ほど述べたように、質問のチャンスは一度きり、質問を手放したら、ハイそれまでヨであります。これって、なんだかコンピュータでプログラムを組むのと似ているぞと感じたことを、いまでも覚えています。「こういうことが生じた場合は、こういう対処をするようにして……」と、事前に考え詰めておかねばならないというわけですからして。


twitterでお見かけした土屋つかささんのコメントは、そうした文脈を鋭く言い当ててくださっております。



というわけで、あのような問答となった次第です。


上記インタヴューとは別に、同号に寄せた論考では、『スカイクロラ』を題材として、その文体観察をしてみました。小説の設定自体にも関わることですが、語り手の感情・情緒に関わる描写がほとんど排されている面白い文体です。




それから、かねがね憧れの雑誌として、毎号ぽわわーんと見とれるばかりだった『IDEA』誌(誠文堂新光社)に寄稿する機会を頂戴しました。郡淳一郎さんによる企画「日本オルタナ出版史」の第2部、第3部となる2冊の号に、岩波文庫石井恭二現代思潮社)、清水康雄(青土社)について小伝を書いております。


この特集号が刊行された後、東京堂書店で開催されたトークショーにもお呼びいただき、異才・異能の登壇者のみなさんの話に圧倒されつつ、一読者の立場からなんとか持ち時間分のお話をしたのは、12月も半ばのことでありました。


2006年あたりから、ひょんなことで始めた教育方面の仕事では、高校課程、専門学校、大学と、お声かけいただくのに応じて無節操にお引き受けしていたら、多い時は週に6日も学校と名のつく場所に行くはめになり、これはさすがに他のことができなくなるので、来年からは少し減らせたらと念じております。


起稿(トランスクリプション、テープ起こし)の仕事も引きお引き受けしています。今年も100本前後のさまざまな分野の談話や講演やシンポジウムを耳にしまして、誠に勉強になりました。この仕事の唯一の難点は、どんなに面白い話を耳にしても口外できないことくらいでしょうか。


以上、書いている本人以外には、ほとんど意味のない2014年の回顧でした。



2015年の展望は次の通りです。


何冊かの本を形にしたいと思います(順不同)。


夏目漱石『文学論』に関する本
・プログラム入門書(新書)
・『「百学連環」を読む』(三省堂
・『哲学の劇場(仮)』(吉川浩満と共著、筑摩書房)
・マリー・セットガスト『先史学プラトン』翻訳(吉川浩満と共訳、朝日出版社
・科学書ブックガイド(編集協力・執筆)
・数学書ブックガイド(雑誌への寄稿)


以上のなかには2013年末の「回顧と展望」でも触れているものがあります。2015年こそは!


今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

*1:ここ数年は更新しておりませんでしたが、目下再始動のアップ中(と言い続けて何度目か)。