高山宏先生との対談への補遺


先日、東京堂書店で行われた学魔・高山宏先生との対談にお越しいただき、ありがとうございました。


学魔は、その文章もさることながら、存在そのものが強力な磁場を形成しているかのようでした。
「魔の眼に魅されて」とはこういうことか、と感得。


さて、うっかりしていたのですが、お土産にと配布した資料について、それぞれがなんであるかという説明をしておりませんでした。ここで簡単にお伝えします。


配布資料はA3で6ページです。内容としては、以下の5種類のものから構成されています。



1: 「学魔を読むときに何が起きているのか」

これについては対談中でも触れました。
『かたち三昧』(羽鳥書店)の或るページを読むあいだ、私の心身になにが起きたのか、ということを記録してみたものです。


同書判読中、山本が注文するに至ったポープの全詩集はこちら。
http://page7.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/g153873855#enlargeimg



2: エリザベス・シューエル『オルフェウスの声』のコピー

a) 「詩人が送り込まれてきたのはまさしく時代の不安を彼が癒すため」という見出しから始まるページ(ノンブルは13から15)
b ) 「詩は科学と通じ合うが、論理とは通じない」という見出しから始まるページ(ノンブルは17から19)
c) 「だし、エルネスト・ルナンが……」と始まるページ(ノンブルは28から29)


以上は、対談中でご紹介したエリザベス・シューエル『オルフェウスの声――詩とナチュラル・ヒストリー』(高山宏訳、白水社、2014/10)のコピーです。


上記のうちaとbは、本文冒頭でシューエルが、同書全体の前提となる問題を提起しているくだり。


cは、その少し後のページで、ここは対談中、機会があれば触れようと思っていた「発見術」を論じた箇所です。つまり、詩(あるいは文学、さらには人文学)と科学には、最初にある思い付き、着想が必要である。その着想そのものは、論理や理詰めというよりは、ひらめくしかないものだ。この着想については、何が重要な役割を果たしているだろうか。それは実は、本を読むときに私たちの脳裏で生じる連想と同様に、なにかしらの条件が揃ったとき、記憶のなかにあるものが結合されて、意識に浮かびあがってくるのではないか。現に物理学者のファインマンなどは、詩人と科学者がやっていることは、どちらも想像力を駆使するという点で、そんなに違っていないと思う(ただし方法が違う)と述べている。数学者のポアンカレもまた、あるいは数学をたしなんだ詩人ヴァレリーの場合は……といった検討をする材料として恰好のページかと思った次第です。


3: 『「百学連環」を読む』の抜粋


これは、2015年秋の刊行を目指して準備中の『「百学連環」を読む』(三省堂)の原稿から、その一部をコピーしたものです。「学術分類の行方」という見出しから始まり、1/3、2/3、3/3というページ番号の順につながっています。

これもごく簡単に意図を述べてみます。先ほどのシューエルの議論(詩と科学の関係)の延長上で、日本の学術体制における理系/文系という分類について考えるための材料として、このページを用意しました。特に3/3というページで、傍線を引いた箇所に注目していただければと思います。西先生は、日本学士院の元になった東京学士会院の組織改革案に関連して、学問分類を述べています。「文学と数学は、諸学を貫通組織する学術」という認識が示されていることについて、高山先生と議論したいと思ったのでした。



4: 夏目漱石『文学論』の抜粋

『文学論』に提示されている「意識の波」説を示した図をコピーしました。本を読むということはどういうことかを考える材料として用意したものです。つまり、普段なにもしていない時、私たちの意識はつぎつぎとさまざまな感覚や記憶が去来して、混沌としています。本を読むとき、そうした混沌とした意識状態が、文字の列に触れ、これを追うことで、譬えていえば、整流されると見なせるように思います。という見立てをする際、漱石が『文学論』で示している意識の波説(この節自体は、モーガンやジェイムズに示唆を得たものです)が手がかりになると思い、ご紹介するためのページでした。


5: 夏目漱石「余が一家の読書法」

これについては対談の最後に触れました。やはり、本を読むときに何が起きているのかということを考える補助線になる議論としてご用意したものです。


これは余談でありますが、高山宏先生の仕事の全域について、インデックスとマップをこしらえようとしている、ということを話そうと思いつつ、機会を得られず仕舞いでした。これについては、またそのうち。


⇒作品メモランダム > 2015-08-21 「読書(人間×書物)という不思議の国(ワンダーランド)のめぐり方
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20150821