たがために音は鳴る

街中を歩いていると、ビルディングの入り口なので、キンキンキンキンたらいう音というよりも、音波と言いたくなるようなものが耳に入ってくることがある。

私はこの音が嫌いで、あれが聴こえるとすぐ逃げる。

先日は、渋谷にある書店で会計をしていたところ、あの音が聴こえて往生した。レジが建物の入り口近くにあって、どうやらその入り口付近で盛大にあのキンキン音が発生している。レジ係りの店員さんたちはずっとこの音にさらされているようだけれど、果たして大丈夫なのかしらん。

 

たぶん音を出しているほうも、私のような輩を寄せつけないためにやっているのだと思われるけれど、見ていると、そんな音などなんでもないといわんばかりに、そのあたりに座って悠揚迫らぬ感じで缶コーヒーを飲む者や談笑に花を咲かせている猛者もある。

いったいどうなっているのか。

話のひとつも聞いてみたいように思うものの、なにしろこちらはその音がある場所を一刻もはやく立ち去りたいから、どだい無理なんである。

 

あるとき、ものを知っていそうな人に尋ねてみたら、「なにあれは、若者避けと聞いたことがあるぜ」とまことしやかなお説を拝聴して、なるほどさすがは物知り、なんでもよく知っていると納得しかかった。

 

だがよくよく思い直してみると、私のようなものに聴こえるくらいだからなにか違うのではないか。「やだ、私が若いってこと!?」と喜ぶほど当方も若さに憧れていない。できたら若さなど馬に食わせて貫録のひとつもつけたいものだ。などと書けば書いたで負け惜しみのように思われるかもしれずまことに癪である。それもこれもあの謎の音が聴こえて苦しむからいけないのである。というか、そもそも若者避けをする意味が分からないよ。

 

私はひそかにあれは一種のネズミ避けみたいなものではないかと睨んでいる。

しかしそうなると、いささか困ったことに、ネズミの諸君と同じようにあの音でめまいがする私の立場は、やはりネズミということになりかねない。まさにネズミ男である。

 

そんなことはどちらでもよろしい。私としてはただ、あの音のしない場所を歩きたいばかりである。

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