「文芸季評 文態百版」第4回、「Web河出」で公開

季刊文芸誌『文藝』(河出書房新社)の2019年春号に書いた「文芸季評 文態百版」の第4回が「Web河出」で公開されました。

季節に一度、3カ月分の各種文芸誌に発表された小説や詩を対象として書いています。

今回は、この連載をはじめて4回目、つまり1年になるというので、この間、文芸誌を読み続けて感じたことを率直に書いております。対象範囲は、2018年9月から11月まで。

とりあげた作品は以下の通り。

・金子薫「壺中に天あり獣あり」

・山野辺太郎「いつか深い穴に落ちるまで」

・谷崎由依「野戦病院」

・町屋良平「1R1分34秒」

・岸政彦「図書室」

・エリオット・ワインバーガー「Not Recommended Reading―要約という名のカバー」

町屋さんの作品は、その後、芥川賞を受賞され、単行本も刊行されましたね。おめでとうございます。

文芸時評はすでにあちこちの媒体でいろいろな方が書いておいでなので、なるたけみなさんとは違う方向から考えてみようと念じております。

と申しますか、今現在、誰が文芸誌を読んでおられるのだろうか……。

 

引き続きよろしくお願い申し上げます。

「Web河出」では、拙連載の第1回から第4回までが公開されております。

「人文的、あまりに人文的」特別編

「ゲンロンβ35」に、吉川浩満くんとの書評対談「人文的、あまりに人文的」を寄稿しました。

「人文的、あまりに人文的」は、以前同誌で連載していたもので、今回は特別編として、石田英敬+東浩紀『新記号論――脳とメディアが出会うとき』(ゲンロン、2019)について話しています。

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小松理虔さんの「浜通り通信」第51回「外枠から考える」も特別掲載されています。

毎号読み応えたっぷりのメールマガジン「ゲンロンβ」は下記からどうぞ。

 

「神への信仰の前に複雑な社会があった」

「社会の複雑性の進化によって「神」が生まれた?――ビッグデータ解析により世界の宗教の歴史的起源を科学的に解明」(慶應義塾大学、2019.03.22)

慶應義塾大学環境情報学部のパトリック・サベジ特任准教授、オックスフォード大学のハーヴェイ・ホワイトハウス教授、ピーター・フランソワ教授、コネチカット大学のピーター・トゥルチン教授らの国際共同研究グループは、「セシャット(Seshat)」と呼ばれる人類進化史に関する大規模データベースの構築とそのビッグデータ解析を行い、社会の複雑性の進化が原因となって、世界中の宗教や「神」の信仰が生み出された可能性を明らかにしました。本研究の成果は、英国の科学雑誌『Nature』誌に3 月 20 日(現地時間)に掲載されました。

原論文は「世界史全体を通じて神への信仰の前に複雑な社会があった」("Complex societies precede moralizing gods throughout world history")で、13名の研究者による共著。

どう検証するかも含めて興味ある研究。

 

 

トークイヴェント「言葉はあふれ、風化は進み、8年が経った」

3月22日(金)の夜、荻窪の書店Titleでのトークイヴェント「言葉はあふれ、風化は進み、8年が経った」に登壇しました。

安東量子さんの新著『海を撃つ――福島・広島・ベラルーシにて』(みすず書房)の刊行を記念した公開インタヴューです。

本書は、福島県の南の端、いわき市に住まう植木屋の安東量子さん(1976年生まれ)が書いた、福島第一原発事故以後の7年半の記録です。告発でも日記でも報道でも報告書でもドキュメンタリーでもありません。

(イヴェント概要から)

原発事故後の混乱の最中から現在にいたるまで、安東さんご自身の経験を綴った本です。目に見えない放射性物質とともにどう暮らせばいいのか。専門家たちの説明と住民の心理との溝はなぜ埋まらないのか。あるいはなぜICRP(国際放射線防護委員会)の報告書に触れて、安東さんはそこに希望を見いだしたのか。そしてなにをしたのか。安東さんの経験と思考と感情の記録としか、とりあえずは呼ぶことのできない特異なテキストです。

 (写真は、同書を編集した赤井茂樹さんが、イヴェント前の控えの場で撮影したもの)

このような本が、いったいどのように書かれたのか。同書の成り立ちと読解を中心に、吉川浩満くんとともに、安東さんにお話を伺いました。

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下記はTitleのイヴェント告知ページと「ETHOS IN FUKUSHIMA」のページで公開された動画「信頼を取り戻す・末続地区の経験ー原発事故の後で」へのリンクです。

 

F. W. クロフツ『クロイドン発12時30分』

年に一度の確定申告が終わり、『文藝』(河出書房新社)で連載中の「季評 文態百版」の原稿を書き終えた。

後者は毎回最後は徹夜で15時間くらい原稿に向かうことになり、われながら計画性のなさに呆れるのだけれど、3日もすれば忘れてしまうので、また3カ月後に同じことをするのだった……(阿呆である)。

仕事として本を読んでいると、ときにはまったく関係のないものを読みたくなる。(そう思って読んでいたはずが、あとから書評の依頼が舞い込んで仕事になってしまうこともあり、油断は禁物なのだが)

というので、このところF. W. クロフツの『クロイドン発12時30分』(霜島義明訳、創元推理文庫Mク3-15、東京創元社、2019)を寝しなに少しずつ読んでいた。創元推理文庫の「名作ミステリ新訳プロジェクト」の第2弾である。

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原書は、Freeman Wills Crofts, The 12:30 from Croydonといって1934年に刊行されている。

著者のクロフツ(1879-1957)は、アイルランドはダブリン出身の作家。もともとは鉄道技術者だったらしい。1919年というから40歳頃だろうか、長い病気療養のあいだの退屈しのぎで小説を書いたと『デジタル版集英社世界文学大事典』は説明している。

クロフツといえば最初に書いた『樽』(The Cask、1920)がよく知られている。タイトルのとおり樽を使ったトリックが中心なのだが、タイトルがあまりにも素っ気なくてとっかかりがない分、かえって謎めいていると思うのは考え過ぎかもしれない。

このたび新訳された『クロイドン発12時30分』は、よく「倒叙法」で書かれたミステリと呼ばれたりもする。

まず犯人がどのようにして犯罪を行ったかを描写して、その後で探偵が推理に乗り出すという順序。以前なら「刑事コロンボ式」といえば通じることが多かったが、最近の中高生には通じないことが多いようだ(そらそうか)。

多くのミステリは、犯行結果だけがはじめに明かされて、そこから探偵が証拠を集めて推理する。それとは逆さまですね、というので英語ではInverted detective storyと呼ぶらしい。ミステリ方面ではこれを倒叙法という日本語で呼ばれている。

ただし『日本国語大辞典』を調べると、「歴史的な時間の流れと逆に、順次さかのぼって事柄を記述すること」と出ており少々紛らわしい。

『クロイドン発12時30分』は、目次をご覧になると分かるのだけれど、全24章のうち、ことが起こる第1章を別にすると、2から22章までが犯人パート。探偵役は、スコットランドヤードのフレンチ警部で、彼が登場するのはあとのほうである。

読者はしばらくのあいだ犯人視点から出来事を追い、彼の内心を見てゆく。そうすると、変なもので事件を起こしたこの人物が、事が露呈しまいか、バレはしないかと焦ったりする様子に触れて、ついこのまま逃げおおせられないだろうかと肩を持ちたいような気分になってくる。

先日読み終えて、満足のうちに閉じたのだった。

クロフツの小説は、創元推理文庫だけでも34冊が出ている。ここにリストを掲げようと思ったのだけれど、数巻について叢書内の番号が分からないので、後日調べがついたら改めて載せようと思う。

次なる気晴らしの本をなににしようかなと思っていたら、おりしも「名作ミステリ新訳プロジェクト」第3弾のA. A. ミルン『赤い館の秘密』(山田順子訳)が刊行されたところ。このシリーズ、エラリー・クイーン『Xの悲劇』、ダシール・ハメット『血の収穫』と続くようだ。旧訳も棄てがたいので、あわせて楽しむことにしよう。

 

レポート:ヒロ・ヒライ+山本貴光『ルネサンス・バロックのブックガイド』刊行記念対談

3月9日の夜にジュンク堂書店池袋店で開催されたヒロ・ヒライさんとの対談について、工作舎のウェブサイトにレポートが掲載されました。

ヒライさんが監修した『ルネサンス・バロックのブックガイド』(工作舎)の刊行記念の催しです。ご来場いただきありがとうございました。

ヒライさんとは、昨年、ローレンス・プリンチーペ『錬金術の秘密』(ヒロ・ヒライ訳、BH叢書、勁草書房)の刊行を記念した対談ではじめてお話しして以来、二度目の対談となりました。

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(写真は工作舎ウェブページからリンクしています)

 

話は同書の企画・編集の経緯から、編集者・二宮隆洋さんについて、ヒライさんご自身の関心の来歴、ルネサンスというものの見方、ブックガイドの中身について、正味70分ほどの対談時間はあっという間に過ぎ去ったのでした。

ヒライさんが専門とするルネサンス思想、インテレクチュアル・ヒストリーのご研究はもちろんんこと、研究者のネットワークをつくり、ウェブサイト「ヘルメスの図書館(bibliotheca hermetica)」の20年近くに及ぶ運営を通じて知をアカデミアの外に開く活動を拝見してきた身としても、ユーモアを交えて穏やかにお話しするヒライさんとの対話の時間はたいへん楽しいものでした。

最後に今後のこうした出版プロジェクトのご予定はと伺ったところ、まだ明かせませんが進行中ですとおっしゃっていました。これも楽しみに待ちたいと思います。

私も『ルネサンス・バロックのブックガイド』を頼りに、未読の本を集め読もうと思います。

対談:片山杜秀+山本貴光「魅力に満ちた赤き偏愛」

「週刊読書人」第3280号、2019年3月8日号に、片山杜秀さんとの対談が掲載されました。片山さんの新著『鬼子の歌――偏愛音楽的日本近現代史』(講談社)の刊行を機に行われた対談です。

読みどころの多いこの本の魅力をお伝えしたいと考えて、片山さんにお話を伺っています。

私自身、日本のクラシック方面の作曲家については、片山さんが企画・解説しておられたナクソスの「日本作曲家撰集」というCDシリーズから、それまで知らなかった曲や名前だけ聞いたことのある曲に触れる機会を得たり、ご著書が出るたび読んできたりしただけに、今回はじめてお目にかかってその執筆の仕方などを伺えて、たいへん嬉しい機会でした。

この対談は「週刊読書人ウェブ」でも公開されております。全6回に分けての掲載で、3月13日に最後の第6回が公開となります。また、対談の様子を撮影した動画も一部公開されています。