エーコの蔵書

TLS(TIMES Literary Supplement)を読んでいたら、「その蔵書にこだまするエーコ(Echoes of Eco in his library: A portrait of the writer through his books)」という記事(Irina Dumitrescu)が出ているのを見かけて、エーコ論が出たのかなと思ったら、映画の話だった。

ダヴィデ・フェラーリオ監督による『ウンベルト・エーコ――世界という図書館』(Umberto Eco: A Library of the World, 2022)の公式トレーラー。

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DOK.fest 2023で行われたダヴィデ・フェラーリオ監督へのインタヴュー。

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上記の動画に続いてレコメンドされたもの。

Umberto Eco: Why Your Unread Books Define You

冒頭から「積読」という日本語の説明から始まっております。

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日本でも上映しないかしら。あるいはDVDでもいいので見たい。

 

いまさらながらデータのフローとストックについて

長年あれこれのSNSを使っていると、ときどき「なんでこんなことしてるんだろう」と正気に返ることがあります。私が「なんでこんなことを」と思うのは、しなくてもよいことを楽しみや遊びとしてやっている、という気分があるからかもしれません。

それはそうと、この頃改めて感じていることをメモしようと思います。

TwitterやInstagramのいいところは、投稿すると比較的多くの人の目に触れやすい点ですが、長年使ってみて次のようなことも感じています。

1) 必ずしも多くの人の目に触れればよいというものでもない。

2) 自分の投稿を後で参照しづらい。

1は用途にもよるのでしょうが、私のような個人が使う場合、投稿が広く拡散したからといって特にうれしいことはあまりありません。

閲覧数(Twitterならインプレッション)が多くなると、いわゆる「クソリプ」の発生頻度も上がって、かえって不愉快になることもしばしばです。といっても、私自身は「バズり」とは無縁の静かなアカウントですので、そんなに騒がしくはないのですけれど。

2はInstagramに顕著です。Instagramでは、もっぱら入手した本の記録がてら、書影と簡単な書誌を投稿しています。半分は「こんな本がありますよ」と、ご覧のみなさんに共有することが目的ですが、もう半分は自分のための備忘です。

ところがInstagramも投稿数が増えてくると、過去の自分の投稿を辿るのも簡単ではなくなってきます。一応タグをつけているので検索も使えますが、これがあまり当てになりません。というのは、画像を中心としたデータを投稿する場なので、当然といえば当然のことですが、1万件近く投稿してみて改めてこんなことを思ったのでした。

Twitterは、自分の投稿に限定して検索する手段もあり、これは便利です。ただし、イーロン・マスク氏がトップになって以来の右往左往で、システムが不安定であるのと、検索も働きが怪しいことがままあって、やはり当てにならないように感じているのでした。

それはそれぞれのSNSが提供しようとしている機能からしたらそうなるでしょ、というご指摘があれば、素直に同意したいと思います。基本的にはフローの場、どんどん流れてなんぼの仕組みなので、ストックして活用ということについてはあまり配慮されていないとしても無理はありません。

などということを、いまさらながら考えて、書いたものを蓄積して小さな書棚なり図書室のようなものにしたい場合、SNSではなくブログや昔ながらのウェブサイトでいいな、と思い直したのでした。

近ごろは、Blueskyのゆったりした感じがちょうどいいなと思っているところです。

 

トマス・アクィナス『神学大全』

トマス・アクィナス『精選 神学大全1 徳論』(稲垣良典+山本芳久編、稲垣良典訳、岩波文庫青621-3、2023/07/14)

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トマス・アクィナス(Thomas Aquinas, c1225-1274)の『神学大全(Summa Theologiae)』(1266-1273)から、編者の稲垣良典と山本芳久が重要と思われる部分を選んで編纂した精選版全4巻のうちの第1巻。

第1巻と第2巻は、創文社版『神学大全』第11冊、第13冊、第14冊からの転載で、文庫版ではその訳者である稲垣良典(1928-2022)が一部改訂を施しているとのこと。

第3巻と第4巻は、山本芳久による新訳。

今回刊行された第1巻には以下の部分が含まれる。

第2部の第1部

・第49問題 習慣一般についてーーその本質に関して
・第50問題 習慣の基体について
・第51問題 習慣生成の原因について
・第52問題 習慣の増強について
・第53問題 習慣の消滅および弱滅について
・第54問題 習慣の区別について
・第55問題 徳の本質について
・第56問題 徳の基体について
・第57問題 諸々の知的徳の区別について
・第58問題 倫理徳と知的徳との区別について
・第59問題 倫理徳と情念との関係について
・第60問題 倫理徳相互の区別について
・第61問題 枢要徳について
・第62問題 対神徳について
・第63問題 徳の原因について
・第64問題 徳の中庸について
・第65問題 諸々の徳の結合について
・第66問題 諸々の徳の間の均さについて

なお、創文社から刊行された『神学大全』(全45巻/39冊、1960-2012)は、創文社の解散後、講談社による「創文社オンデマンド叢書」で刊行が続けられている。

 

岩波文庫に入っているトマス・アクィナスは以下の通り。

青621-1 『聖トマス 形而上学叙説 有と本質とに就いて』(高桑純夫訳、1935/11)
青621-2 『君主の統治について 謹んでキプロス王に捧げる』(柴田平三郎訳、2009/09)
青621-3 『精選 神学大全1 [徳論]』(稲垣良典+山本芳久編、稲垣良典訳、2023/07)

 

関連する文献について、追ってここに加えていくつもり。

DISTANCE.mediaのサイトが正式にオープン

以前ここでもご紹介した「DISTANCE.media」というサイトが正式にオープンしました。

運営・編集はNTT出版、サイトのアートディレクションは田中良治さんです。

私は、塚田有那さん、ドミニク・チェンさんとともにエディトリアルボードを務めております。

目下は、以下のような要素で編まれています。

 

現在のサイトの様子はこんなふう。

現在の特集は「DISTANCE 新しい距離を考える」と「礒崎新から遠く離れて」の二つです。また、かつてNTT出版が出していた雑誌『InterCommunication』のアーカイヴも順次拡張してゆく予定です。

ここでも少しずつご紹介して参ります。どうぞお楽しみくださいませ。

 

distance.media

ワークショップ「医学をみんなでゲームする」(順天堂大学 Medit Lab)

2023年6月18日に順天堂大学で開催された「医学をみんなでゲームする」というワークショップに参加しました。

これは、順天堂大学の小倉加奈子先生たちが率いる「Medit Lab 順天堂STEAM教育研究会」が主催するものです。Medit Labは「医学に興味のある中高生の生徒さん、先生方、そして保護者の方々と、「リベラル・アーツとしての医学」を学ぶ様々な実験」をしてゆくことを目指す会とのこと。

今回の「医学をみんなでゲームする」というワークショップは、高校生を中心とする参加者のみなさんとともに、医学をテーマとするゲームをつくりながら医学について考えたり、つくったゲームによって医学について学ぶというものです。いわゆるシリアスゲームの試みですね。

私は当初、小倉先生からお声かけいただいて、一聴講者として参観させてもらうつもりでいたのですが、気がついたらワークショップで講義をしておりました(超展開)。

おしゃべり病理医こと小倉加奈子先生の、聴いているだけで楽しくなってくるようなお話にいざなわれて始まったワークショップの様子については、Medit Labのウェブサイトで詳しく紹介されていますので、ご関心のある向きは下記のリンク先をご覧ください。

https://meditlab.jp/wp-content/uploads/2023/06/7740190e3f5d394623bff5e3b0cf7d2d-1536x1024.jpeg

(上の写真はMedit Labのページ掲載の画像へのリンクです)

今回を皮切りに全4回のワークショップをつうじて、参加者のみなさんがどんなゲームをつくるか、楽しみにしています。このワークショップ、STEAM教育の実践としても、ゲームデザインを使った教育実践の試みとしてもたいへん興味深いもので、私も勉強したいと思います。

meditlab.jp

 

視覚デザイン特別講義@長岡造形大学

2023年6月16日に、長岡造形大学の「視覚デザイン特別講義」でゲスト講義を担当しました。4・5限の2コマで、Zoomを使ったオンライン開催です。この特別講義は、一般の方も受講できる設定でした(要事前予約)。

上記は同大学の告知ページから。

講義概要と画像をとリクエストを頂戴して、ゲーム画面を出すのはいろいろ面倒かもしれないと思って、イラストを描いたのでした。

講義では「Xをするとき何が起きているのか」という問いかけから出発して、まずは「本を読むときに何が起きているのか」について、具体的に写真を使って検討してみました。書棚を眺め、1冊を手にとり、ページを繰るという動作を具体的に眺めながら観察するわけです。

同じようにして、上記の文庫本と同じ本の電子書籍(iPadのKindle版)を使って、アプリの起動から電子書籍の閲覧まで、どのような動作が行われているかを具体的に眺めてみました。

両者は、同じ「本を読む」という言葉で表される行為ですが、具体的に比べると、まるでちがう経験であることが分かります。

以上のウォーミングアップを通じて、「Xをするときに何が起きているのか」ということを見る目をつくった上で、「ゲームで遊ぶときに何が起きているのか」を、いくつかの具体例を使って検討したのでした。

「ユーザー体験(UX)」という言葉で簡単に済ませてしまいがちなことについて、どこまでも具体的に検討するという実験のような内容です。

長岡造形大学でのゲスト講義は、これで3回目でした。

 

www.nagaoka-id.ac.jp

「平山亜佐子と小林昌樹のこちら文献調査局」にお邪魔しました

2023年5月22日(月)に、「平山亜佐子と小林昌樹のこちら文献調査局」(シラス)というチャンネルにお邪魔しました。

これは、genronが運営する動画プラットフォームの「シラス」で開設されているチャンネルです。

国会図書館でレファレンス(調べ物相談部門)を15年勤め、2022年末に話題の書『調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』(皓星社)を上梓した小林昌樹(書物蔵)と、大学図書館に6年(レファレンス歴1年半)勤め、明治大正昭和の文化や教科書に載らない女性たちについて本を書いている平山亜佐子がお送りする、文献調査の極意を教えるチャンネル。
調べ方のコツやデータベースの紹介、図書館の使い方、古本の利用法など調べ物にまつわるあれこれをお送りします。

(同チャンネル「概要」より)

今回は、同チャンネルで「調べる技術を著者に聞く新シリーズ」が始まるということで、僭越ながら最初のゲストとして参加したのでした。

平山さんと山本とで、調べ物にまつわるあれこれを話しました。

 

シラスでは、会員はもちろんのこと、会員でない方も番組単位での価格でご視聴いただけるようです。

平山さんと小林さん、あるいは次回以降のゲストのみなさんから、調べ物の極意を教えていただこうと思い、私もチャンネル購読をしました。

平山さんは、『化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)という新著がもうすぐお目見えとのことで、楽しみにしています。

 

shirasu.io