先頃から、aquiraxさん(id:aquirax)が主宰する「明治賢人研究会」の末席を汚している。この研究会、明治文学思想研究者か好事家(褒め言葉)でもなければ繙読の機会もなかろうかという作品を原典に拠って読み解きつつ、そこに映じる明治の社会・文化の諸相を玩味しようではないかという趣旨の会である。


先だって開催された第1回の研究対象は、内田魯庵(うちだ・ろあん[内田貢]、1868-1929)で、魯庵の明治』がテキストに選定されている。


ここでは、魯庵読解のために、比較的最近に刊行された作品で新刊書店・古本屋・図書館を利用すれば読むことができそうなものをみつくろって掲げておこうと思う。なお、掲載作品中、インターネット上に電子テキストがあるものについてはリンクを貼っておく。


⇒武蔵野人文資源研究所日報
 http://d.hatena.ne.jp/aquirax/
 aquiraxさんのウェブログ


⇒哲劇メモ > 2005/08/02
 http://d.hatena.ne.jp/clinamen/20050802/p1



山口昌男内田魯庵山脈——〈失われた日本人〉発掘』晶文社、2001/01、amazon.co.jp


内田魯庵といえば、山口昌男(やまぐち・まさお、1931- )氏の愉快きわまりない人脈網文化史誌内田魯庵山脈——〈失われた日本人〉発掘』晶文社、2001/01、amazon.co.jp)はこんな風に語りおこされていた。

内田魯庵。普通の小説家志望の男女の反応、「知らないね、そんなの」。


やや読書好きの青年子女、「文庫に『社会百面相』というのと『思い出す人々』というのが二冊入ってるんじゃない。あ、あー、それにこないだ伝記が出て結構売れてるってんじゃない」。


近代文学史などというおぞましきものを少し齧っているうるさい連中、「大学予備門などというところに入って、早い頃に英語を齧り、紅葉などの出たての作家を脅して気にされ、丸善の番頭になって親方日の丸の博識で世間を煙に捲き、嫌味の大家であったために社会諷刺家と誤解されてこわもてし、小林秀雄の出現により一挙に世間から忘れ去られた、かつての作家・文学批評家の出来損ない、と言っておこうか」。


文化人類学志望の若者、「何やそれ、おじさんみたいに忘れ去られた文化人類学者の類か」。

(同書、17ページ)


山口氏がこう書いてから4年(『群像』連載時から数えたら6、7年?)で、魯庵をめぐる状況がどう変化したのか不案内でよくわからないけれど、書店に並ぶ魯庵の作を見る限りでは微前進といったところだろうか。本書についてはまた改めてメモランダムを作る機会を設けたい。


ちなみに山口氏が上記引用文中で触れている伝記は、野村喬内田魯庵傳』(リブロポート、1994/05、amazon.co.jp)であると思われる。同書は、内田魯庵全集』(全17巻、編集・解説=野村喬、解題=片岡哲、ゆまに書房、1983-1987)の編者でもある野村喬氏によるもので、魯庵の生涯を知るにはうってつけの一冊。


札幌大学 > Gallery
 http://www.sapporo-u.ac.jp/gallery/



内田魯庵魯庵の明治』山口昌男坪内祐三編、講談社文芸文庫うD1、講談社、1997/05、amazon.co.jp


目下、講談社文芸文庫には魯庵の作が二冊はいっている。一冊目がこの『魯庵の明治』。もっぱら明治期の回想記を中心に編まれたアンソロジー。収録作は次のとおり。

■I
・銀座と築地の憶出(大正15年7月「女性」所載)
・銀座繁昌記(昭和4年1、2月「中央公論」所載未完)
・下谷広小路(昭和4年4月松坂屋新館落成記念出版『下谷上野』所収)


■II
・早取写真
納札の過去現在未来
・明治以降——『見せ物』の変遷
・灰燼十万巻(明治41年12月11日、火災の翌日記)【e-text
・文明国には必ず智識ある高等遊民あり【e-text
・駆逐されんとする文人【e-text
・二十五年間の文人の社会的地位の進歩(「太陽」増刊 明治45年6月13日号)
・シロウトの画葉書(大正2年2月)
・のん記
・病臥六旬



内田魯庵魯庵日記』講談社文芸文庫うD2、講談社、1998/07、amazon.co.jp


明治27年から44年までの日記。身辺雑記はもちろんのこと、新聞記事や名刺(実物)の貼りこみ、それについての批評、日記というよりはもはや随筆になっている文章など、多種多様な文章が日記の名のもとに書かれているさまが頗る愉快。


いま検索して気づいたのだけれど、講談社のウェブサイト内には「学芸文庫」や「学術文庫」の専用ページが存在していないのですネ(あるのかな)。



内田魯庵『気まぐれ日記』(リキエスタ、トランスアート、2001/07、amazon.co.jp


日記といえば、こちらは1912年(明治45=大正元年)の7月から12月まで『太陽』博文館)に連載したもの。1936年に双雅房から単行本として刊行されている。本書は、リキエスタの会によって『明治文学全集 第24巻 内田魯庵集』(筑摩書房、1978)を底本にしたもの。解説は坪内祐三氏。


⇒リキエスタ
 http://www.honco.net/richiesta/



内田魯庵魯庵随筆 読書放浪』斎藤昌三柳田泉編、東洋文庫603、平凡社、1996/08、amazon.co.jp


魯庵の周辺にいた斎藤昌三(さいとう・しょうぞう, 1887-1961)が興した書物展望社から刊行した魯庵の随筆集。編集には、柳田泉(やなぎだ・いずみ, 1894-1969)も携わっている(柳田の跋文によると実務はほとんど斎藤によるという)。本書に先立つ第一弾として魯庵随筆 紙魚繁昌記』も同社から刊行された。内容は以下のとおり。

■読
・モダーンを語る
・銀座と築地の憶出
・窓から眺める
・銀座繁昌記
・下谷広小路


■書
・東西愛書趣味の比較
・出版上の道徳
・新著を閑却するはホントウの読書家に非ず


■放
・万年筆の過去、現在及び未来
・ヲーキング・ステッキ
・煙本
・喜劇標札蒐集
・初めから珍本である雑誌


■浪
・読書放浪
・釈迦と基督とマルクス
・上下思想とルパシカ思想


・附録 内田魯庵著作年譜(編纂=斎藤昌三
・跋 『読書放浪』の普及版に(斎藤昌三


・解説 『魯庵随筆 読書放浪』の魅力(紅野敏郎


平凡社 > 東洋文庫
 http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/series.toyo/



内田魯庵『明治の文学 第11巻 内田魯庵坪内祐三鹿島茂編、筑摩書房、2001/03、amazon.co.jp


坪内祐三氏が編集した「明治の文学」の第11巻。「内田魯庵は明治のベンヤミンだ。好きなもの、街歩き、古本、オモチャ、万年筆、ステッキそれに思い出。嫌いなもの、権威主義、知ったかぶり、事大主義。ゆえに今こそ、魯庵をよみがえらせる必要があるのだ。」という紹介文もふるっている。収録作品は以下のとおり。

・くれの廿八日
・文学者となる法
・楼上雑話(抄)
二葉亭四迷の一生
・予が文学者となりし径路
・万年筆の過去、現在及び未来
・ステツキのカタログの序


この叢書は、明治に不案内な現代の読者のために、注釈や図を豊富にいれてあるのでこれから読んでみようという読者に推奨したい一冊。小説、随想、人物伝、回想、広告など魯庵の多面的なスタイルを概観しようとした編集意図のようだ。


⇒筑摩書房 > 「明治の文学」
 http://www.chikumashobo.co.jp/zen/meiji.html


岩波文庫には、四冊三作品が収録されている。ほとんど品切れ状態だが参考まで掲載しておきたい。


内田魯庵『社会百面相』(上下巻、岩波文庫緑86-1, 2、岩波書店、1953/02 - 1954/09、amazon.co.jp


小説集。附録として「破垣」も収録されている。また、息子・内田巖氏による「非文士の父魯庵」、猪野謙二氏による「解説」も併載。


内田魯庵『くれの廿八日』岩波文庫緑86-3、岩波書店、1955/12、amazon.co.jp


魯庵最初の小説。この作品自体は、前記の「明治の文学」に収録されている。本文庫版には「当世文学通」が併載されている。解説は稲垣達郎。


内田魯庵『新編 思い出す人々』紅野敏郎編、岩波文庫緑86-4、岩波書店、1994/02、amazon.co.jp


収録作品は以下のとおり。

二葉亭四迷の一生
・二葉亭余談
・二葉亭追録
二葉亭四迷——遺稿を整理して
・明治の文学の開拓者——坪内逍遥
・欧化熱と山田微妙
硯友社の勃興と道程——尾崎紅葉
斎藤緑雨
・淡島椿岳——過渡期の文化が産出したハイブリッド
・三十年前の島田沼南
・鷗外博士の追憶
露伴の出世咄
・温情の裕かな夏目さん【e-text
・最後の大杉
八犬伝談余



★木村有美子内田魯庵研究——明示文学史の一側面』(和泉選書127、和泉書院、2001/05、amazon.co.jp)がある。


現在流通している魯庵のモノグラフとしては本書がある。

■? 魯庵と紅葉
・紅葉作品評に見る魯庵の文学意識
魯庵にとっての紅葉


■II 「くれの廿八日」考
・本文の読解を中心に
政治小説との関連について?「政治小説を作れよ」の解釈をめぐって
・『浮雲』『其面影』との関連について


専門的な観点から魯庵作品の読解を試みた一冊。従来の魯庵解釈に新たな光を投げかけようという内容。魯庵の作品を読みつくしたあとで、なおもものたりない読者は手にとるとよいかもしれない。



伊藤整日本文壇史2——新文学の創始者たち』講談社文芸文庫いD3、講談社、1995/02、amazon.co.jp


私たち文学史の門外漢にとって明治文学史をたどるさいに便利なリソースのひとつに、伊藤整瀬沼茂樹日本文壇史(全24巻+目次総索引、講談社文芸文庫講談社)がある。魯庵への言及が特に多い巻は、第2巻「新文学の創始者たち」。


まだきちんと調べていないが、内田魯庵に関して情報を集積しているサイトに出会わなかった。ここには関連ウェブサイトへのリンクを追記してゆく。


電子図書館 > 内田魯庵
 http://www.eonet.ne.jp/~log-inn/04chosya_au.htm#内田魯庵


丸善 > 丸善社史
 http://www.maruzen.co.jp/home/history_1.htm


拙サイト「哲学の劇場」を更新しました。


ひきつづき雑誌『季刊パイデイア』(1968-1973、全16号)の目次情報を作成しています。今回は、第6号をアップしました。


★資料集 > 『季刊パイデイア』第6号
 http://www.logico-philosophicus.net/resource/paideia/06.htm
 雑誌『季刊パイデイア』第6号、1969年夏号の詳細目次です。特集は「シュルレアリスムと革命」。