全集と死

近所のゲームショップに戦国無双コーエー)の売れ行きを眺めがてら、そのそばにある古本屋をのぞくと、筑摩書房の「世界文学全集」がほぼ全巻並んでいる。


1960年代や70年代に刊行されたこの手の「全集」がそろって古本屋に並ぶのを見ると、そうとは決まったものでもないのに「その持ち主の死」を想像してしまう。むかし懇意にしていた古本屋の主人に吹き込まれた話が耳の奥にのこっているのだ。


――書物を一山所蔵している老人が亡くなると、残された家族にとっては迷惑なゴミでしかないその蔵書が古本屋にひきとられる、ということがしばしばあるんですよ、八雲さん。あなたがいま手になさっている本もね、そうしてひきとらせていただいてきたものなんですよ。でもねぇ、いまどき文学全集なンて買ってくださる方もいないものだからね、そうやって一冊300円とかで露台に出すんですよ。でもよく考えたら精選された作品に懇切な解説や年譜までついて文庫本より安いなんて、相当お値打ちだと思いませんか? といってもウチだと出したその日に八雲さんが拾っていかれるから本も幸いです。そうでなくってもウチの棚にしてはいい本が並んだと思ったらすぐ八雲さんが持っていかれますからね。って、文句じゃないですよもちろん(笑)。あ、そうだまだ表には出してませんけど、その「全集」の方の蔵書に例の転向の研究書がはいっていましたけどご覧になりますか?


……そんな風にして、亡くなった老人たちの蔵書から恩恵をこうむっている私は、古本屋を出るたびどちらに向かってよいのかわからないながら(神や仏を信じてもいないくせに)心のなかで手をあわせるのであった。


そんなわけで、古本屋に全集がまとまって並ぶのを見ると、元所有者の死を勝手に想像してしまう。古本屋にはいって「世界文学全集」の一冊を箱から抜いてみると、やはり値づけは300円。探していた『アンチ・ロマン集』(当世風にいうなら「ヌーヴォー・ロマン集」だろうか)を手に入れて店を出た。どこのどなたかわからないけど、どうもありがとう。


戦国無双は何本仕入れたのかわからないが、売り切れとなっていた。定価は6800円。