読み上げる男


ドア・チャイムに呼ばれて玄関口へいく。宅配便の配達人だ。ドアをあけると配達人の兄さんは開口一番「まいど。今日は、日本のアマゾンからです」という。


そう、この兄さん、私に本を運ぶ専用の係なのではと思うほどよく配達に来てくれるのだが、くるたび発送主を大きな声で読み上げる(業務規則にあるんだろうか?)。「今日は、ええと、アマゾン・フランスですね! たくさん入っているみたいだから気をつけてくださいね」「これは……ベルギーの古本屋……ですか?」「これ、アマゾン・ドイツですか?」「ああと、バーンズ・アンド・ノーブルズ、ですね」「わからないけど、アラビア語かなにかですね、これは」――ともかく毎回なにかコメントをせずには配達をしない。


玄関から真正面に見える私の部屋のドアを迂闊にも閉め忘れているとめざとく視線を飛ばす。「ははぁ、そうしてこの本もまたあそこに積まれてゆくんですね!」と邪気の感じられないだけにたちの悪い(だいたい、「積まれる」というところがリアルすぎる)コメントが出る。「お仕事かなにかで使われるんですか?」との素な質問に警戒心を忘れて「あ、いえ、仕事じゃないんです。仕事はゲームつくりで、あの本とは関係ないんです」とは「あははは……」とどうしてよいかわからずに莫迦のような薄ら笑いを浮かべる私のこれまたベタな応答。


あの兄さんに「またあの人は本を買ったのか、読めもしないのに好きだなぁ」と思われるのかと思うと少しく癪なので、今日は注文を差し控えよう。ほんとは、何冊か読みたいと思っているのに書店でめぐりあえない本があるのだが。