★(承前)何を企んでいる?



★『近代犯罪科學全集3 犯罪捜査法』(武侠社、昭和五年)


昭和五年といえば1930年。そんな時代に刊行された「近代犯罪科學全集」(全15巻+別巻)の第3巻がこの「犯罪捜査法」である。


巻末の総目録を眺めると、「医学博士」「警視庁鑑識課写真室主任」「文学士」「教授」などなど錚々たる(?)肩書きに飾られた執筆者名が目にはいる(そういやむかし(って数年前です)鎌倉を散歩していたらば、普通の家の表札に「文学博士」って書いてあったのを見たよ)。


全巻はこんな構成である。


第01巻 犯罪と人生/変態性欲と犯罪
第02巻 理化学鑑識法
第03巻 犯罪捜査法 附犯罪用語集並隠語集
第04巻 変態心理と犯罪
第05巻 女性と犯罪
第06巻 世界暗殺秘史
第07巻 犯罪鑑定余談(余談って……)
第08巻 法医学短編集(短編集って……)
第09巻 売淫、掏摸、賭博
第10巻 犯罪者の心理
第11巻 殺人、変死、不法交接
第12巻 血液型と親子鑑定/指紋学
第13巻 刑罰珍書集(ち、珍書ですか)
第14巻 同
第15巻 同
別 巻 特異犯罪の実記


「変態心理」ってなんだか聞き覚えがあるなぁと思ったら、江戸川乱歩やその前後の探偵小説によく出てきませんでしたこと? とまぁ、こういう構成でどの巻も非常に面白そうなのです。


私が横浜の古本屋でこの本を見つけたときには、残念ながらこの巻しかなくって、他の巻は読んだことがないのでした。


それはともかく。本を箱から取り出して表紙をめくると、口絵に何枚かの写真が掲載されています。そのキャプションはこんな風。

。所だん畳折を具器其は下左、務事識鑑罪犯頭街るけ於にンリルベ

これは、口ひげをたくわえてスーツにシャッポまでかぶった紳士然とした男が、携帯用の机+椅子(なぜか日除け傘までついている)に座って書き物をしている図。傍らには七つ道具がおさまっているらしいトランクが。もう一葉の写真には、おりたたまれて携帯可能状態になった机と椅子とトランクが。


して内容ですが、詐欺(贋刑事なんて項目も)や選挙違反を扱った「智能的犯罪捜査法」、強盗・殺人・不良少年を対象とした捜査を説いた「強力的犯罪捜査法」(手配や張り込み、護送の仕方も書いてある)、それと強盗や詐欺師が用いる隠語集がついていて、これ一冊を読めば、智能犯から強力犯まで臨機応変の捜査力がつくという寸法。


なかでも可笑しいのが賭博取締りのための解説で、「凡そ世間に行はれて居る所の賭博は其の種類方法甚だ多く其の数幾十にして足らないのであるが茲では其の総てについて研究する暇がないのであるから現在一般に比較的多く繰返へされて居る賭博行為の数種に就いてのみ賭具の方面より分類して説明することにする」と、断りをいれたうえで、賭博のルールを解説しているところ。丁半でさいころの図をいれて説明してみたり、花札を図示していたりと妙に芸が細かく、この説明をもとに賭博を開催することも可能であるほどである。


そうそう、「探偵上注意すべき事項」なんてくだりもあって……ひさしぶりに読むとおもしろいなァこれ。ちょっと失礼して本書を読むことにします。ではまた、ご機嫌よう。