★左右をよく見てわたりませう

飛行機に乗るまえに雑誌を買い求める。一冊は『正論』2004年6月号(産経新聞社)、もう一冊は『論座』2004年6月号(朝日新聞社)。


座席についてシートベルトをしめる。さて、どちらから目を通すか。やはりネタとしての期待が高い――


・石川水穂「サヨクを論破するための理論武装入門」


を表紙、背表紙でトップ記事の扱いをしている『正論』かしら(釣られてますがなにか)。


――そうか、彼/彼女たちにはまだ論破せんければならない論敵がいるのだなァ、われわれ一般人(と勝手に代表する)の知らない場所で闘いがつづけられているのだなァ、と感慨を新たにしながらページを繰る。しかしどうやって論破するのかなァ、サヨク


脱構築しちゃうぞ」(ふるいよ)とかいってせまってくるサヨク理論の攻撃を「わははは、莫迦め。それは自虐史観国益を損なうじゃないか、この亡国の徒め」とかいって切り返すのかな(かみあってないっつーの)。


ようし、僕もこれで入門をはたしたらば、街でサヨクのおじちゃんを論破しちゃうぞ。でもまてよ、もしサヨクを理論的に論破する武装を装備できるのだったら、その武装でウヨクも論破できるんかしら。とゆうか、ウヨクは街宣車でぶいぶい主張を宣伝しながら練り歩いてるから探さなくてもみつかるけど、サヨクっていまはどのへんに棲息しているのかしらん。などと夢をふくらませて「入門」に目をおとすこと五分。


……


サヨクを論破するための理論武装入門」じゃなくて「サヨクに破られないための自己暗示入門」だったーよ(いつもの)。 orz


気になる方のために、見出しと議論のポイントをならべておきましょう。


「一、自衛隊イラク派遣と集団的自衛権
 ・イラクの人質事件の三人は「日本政府と国民に多大な迷惑と心配をかけたことを反省」せよ
 ・日本の教科書における日本の自衛隊の役割についての記述は海外派遣に批判的で必ずしも正確ではない。
 ・現状の憲法九条の政府解釈はおかしい。
 ・「北朝鮮の脅威が現実化する前に、一刻も早い憲法改正が必要」。


「二、国旗・国歌問題と朝日社説」
 ・都立高校卒業式で国歌斉唱時に起立しなかった職員の懲戒処分について。「ここまで指示しなければならないのも情けない話ですが、いまだに国旗・国歌に抵抗を続ける一部教職員の自覚を促すためには、やむを得ない行政指導でした」
 ・「ふだんの社会科や音楽の授業で、国旗・国歌の意義や由来を含めてきちんと教えておけば、卒業式や入学式で、むりなく国旗に向かって起立し、国歌を歌うことができるのです」


「三、首相の靖国公式参拝は合憲」
 ・靖国神社は「日本の戦没者慰霊の中心施設として、遺族をはじめ日本国民の崇敬を集めてきました」
 ・小泉首相の参拝は「遺族や国民が待ち望んでいたことでした」
 ・「一部で違憲判決が出されようが、靖国神社戦没者慰霊の中心施設であることに変わりはありません。小泉首相は堂々と靖国参拝を続けてほしいものです」


「四、朝鮮人強制連行という歪曲」
 だんだん書くのが億劫になってきたので以下は見出しのみ(でもなにが書かれてあるかは推察できるかと)。


「五、間違いだらけの慰安婦問題」


「六、南京事件の重大なうそ」


「七、竹島尖閣諸島はまぎれもない日本の領土」


にしても毎号『正論』という雑誌の誌面をうめつくす怨み節のような、どことなく不満げなトーンはなんだろうか。


記事はともかく「サヨクウオッチャー」の肩書きをかかげる中宮崇。藤岡たんの自虐ネタは「共通一次センター試験の自虐25年史」。稲垣武の「マスコミ照魔鏡」のテーマは「邦人人質事件・国旗国歌の朝日社説を嗤う」。東谷暁は論壇時評で同誌の読者にむけて『世界』掲載論文を紹介するさいに「岩波書店の雑誌をわざわざ読みたくない読者もいるだろうが」と但し書きをいれたり。


このたび『正論』『論座』をたてつづけに読んでみて思ったのは、『正論』の矛先がサヨク的なものに向けられているのに対して、『論座』の矛先はウヨク的なものに向けられているわけではない、ということだった(あと、ウヨクのほうが「国民」を味方にしたがる傾向にあるみたい)。


この片想いのようなすれちがいはなんなのか。だなンて、ミギもヒダリもよくわきまえていない教養崩壊世代ならではの問題提起めいたことをしたところでおひらきといたします。