森岡正博『感じない男』(ちくま新書521、2005/02、amazon.co.jp)#0193


「男とは」という安易な一般化を退けて、あくまで「私〔森岡〕は」という一人称で語った男の性をめぐる本。他の著者の書物からは得られない異様な読後感(これは褒め言葉です)が従来の森岡作品にもまして強い。問題を森岡さんご本人からその場で手渡されるようなかんじだ(他の多くの書物における問題の授受がどちらかというと読み手が耳を凝らして懸命になにかを聞き取ろうと努力したすえに行われるのにたいして)。目次は以下のようになっている。

第一章 ミニスカートさえあれば生身の女はいらない!?
第二章 「男の不感症」に目を背ける男たち
第三章 私はなぜ制服に惹かれるのか
第四章 ロリコン男の心理に分け入る
第五章 脱「感じない男」に向けて


去年、映画『セックス調査団』の日本封切にあわせて(?)復刊されたアンドレ・ブルトンほかによる『性についての探求』野崎歓訳、白水社amazon.co.jp)は、ブルトンをはじめとする男女が忌憚なく(とは理想であって記録を読むとわかるように主宰者のブルトン自身がホモセクシュアルに嫌悪感を表明してそれについて議論したくないと主張するなど、かなり忌憚ありなのだがそれはさておき)性について語り合う共同討議の記録だった(実施は1920年代。ついでに言えば映画版は原作とは似ても似つかない愚作だった。もちろん愚作好きには愉しめるという意味でもあるのだけれど)。


森岡さんのこの本は、いってみれば『性についての探究』をお一人で行った記録。本書で提出されている仮説に対して、統計的なデータに基づく批判をしてもはじまらない気がする。実のある批判の方法があるとすれば、ブルトンがそうしたように、討議の場でそれぞれが自らのセクシュアリティに基づいて議論をたたかわせるということになるだろうか。


なお、森岡さんにはちくま新書に『生命観を問いなおす――エコロジーから脳死まで』(ちくま新書012)もある。




⇒生命学ホームページ
 http://www.lifestudies.org/jp/
 森岡氏が主宰する生命学に関するウェブサイト。


⇒感じない男ブログ(@はてな
 http://d.hatena.ne.jp/kanjinai/
 本書に関するブログが開設されている。


⇒哲学の劇場 > 作家の肖像 > 森岡正博
 http://www.logico-philosophicus.net/profile/MoriokaMasahiro.htm