品田冬樹『ずっと怪獣が好きだった——造形師が語るゴジラの50年』岩波書店、2005/03、amazon.co.jp)#0330


核実験の影響により巨大な未知の生物が出現し、都市を襲い破壊する。巨体による蹂躙はもちろんのこと、口から放射能火炎を吐くこの怪物に、人類はどう向かいあうのか。伊福部昭のあの曲にのせてあらわれる怪獣ゴジラは恐ろしい災厄でありながら、同時になぜか気分を高揚させるものでもあった。


話が飛ぶようだけれど、坂口安吾が戦後に「戦争はひどかったひどかったとみなさんは言うけれど、そんなこといったって戦争中はなにやら楽しげだったじゃないか」(大意)という趣旨の指摘をしているのに出会ったとき、戦争で苦しみながらも他方でその状況をも楽しんでいたかもしれない人々の気持ちをいくぶん忖度できるように思えたのは、いつか観た『ゴジラ』を思い出したからだった。


なぜ怪獣は、そして精緻につくりこまれたミニチュアの都市が怪獣によって破壊されるさまは、かくも魅力的なのか。


本書は怪獣の魅力にとりつかれた造形師が制作現場の視点から書いた書物で、怪獣映画の歴史をゆるやかにたどりながら、そこに惹かれていったご自身の経緯と、怪獣造形・操作の過程を語る内容になっている。著者は、自身もビオランテほか多数の制作に携わっている造形師・品田冬樹(しなだ・ふゆき, 1959- )氏。


特撮現場の制作風景をおさめた写真も多数掲載されている。とりわけ98-101ページにわたって掲載されているミニチュア・セット——「三池敏夫率いる特殊美術班が、『ゴジラモスラキングギドラ 大怪獣総攻撃』のキングギドラ疾走シーンのために作り上げた珠玉の夜景」——の出来映えといったらない。

1 怪獣はどこから来たのか
コラム ゴジラヌイグルミ事始め
2 怪獣まかりとおる
コラム 怪獣映画をさせるモノ
3 怪獣はどこに行くのか
対談 怪獣中年、吼える
・「『ゴジラVSビオランテ』の頃 白石雅彦氏との対談」
・「クリーチャーがやって来た 鷲巣義明氏との対談」
・「押井監督、怪獣を語る 押井守氏との対談」


⇒日本映画データベース > 品田冬樹
 http://www.jmdb.ne.jp/person/p0401050.htm


品田冬樹の怪獣ガレージキット
 http://www.ne.jp/asahi/paopao/wonderland/genkeisi/godzsina.html