『独裁者』(124min, 1940)
 The Great Dictator


トメニア国の独裁者ヒンケルと、同国のゲットーで床屋を営むユダヤ人という対極の立場にある二人を軸にして、ナチス・ドイツとヒトラーの蛮行を対象化・批判する物語を展開した作品。国内にあってはユダヤ人の抹殺計画を推進し、国外にあっては領土的野心を隠さず隣国オスタリッチに軍を進めるヒンケル。そんなヒンケルの政策に翻弄される床屋とゲットーの人びと。このちっぽけな床屋はいかにして強大なヒンケルに拮抗しうるのか? ヒンケルの珍妙な似非ドイツ語による演説、地球儀風船のダンス、床屋の「ハンガリー舞曲」にシンクロナイズドした超絶技巧の髭剃り、そしてラストの演説など見所の多いことでも知られる作品。


劇中でヒンケルが演説のさいに使う「ヒンケル語」は似非ドイツ語的な造語の連発で字幕もつかないのだけれど、先頃刊行された大野裕之さんのチャップリン再入門』(生活人新書、NHK出版、2005/04、amazon.co.jp)に再録されたヒンケル語解読に目をとおしてから観ると、要所要所で単語が聞き取れてよりいっそう可笑しい(余談になるが、このヒンケル語的な言葉遣いは、イギリスのコメディ番組「モンティ・パイソン」でもときどき使われており、ヒトラーがパロディの対象になっている)。


この作品、撮影開始が1939年で翌年公開と言えば、チャップリンの慧眼ぶりがいやでもうかがえるというものだ。2002年にフランスでリヴァイヴァル上映され、新作に劣らぬ観客動員を実現し話題になったことも記憶に新しいところ。戦争と独裁者があるかぎり、この映画が古びることはない。


⇒作品メモランダム > 2005/04/10 > 大野裕之チャップリン再入門』
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20050410/p1


⇒作品メモランダム *[Charles Spencer Chaplin]
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/searchdiary?word=%2a%5bCharles%20Spencer%20Chaplin%5d
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