アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』(創元推理文庫)

今年は昨年の反省をもとに、仕事に直接関わらない本を読む時間を意識してつくることにした。

油断していると仕事に関わる本ばかり読んでいて、これではなんだかまいってしまうと思ったのだった。

こういうときは、どっぷりすっかり没頭できるミステリがよい。

というのでこのところ、アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』(山田蘭訳、創元推理文庫、2018)をちびちびと読んでいた。

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すでに大評判の本だけに、いまさら私が讃辞を述べたところで詮無いようなものだけれど、これは本当に楽しめるミステリだった。

主人公のスーザン・ライランドは、出版社に勤める編集者。小説は、彼女が自宅で原稿を読もうとする場面から始まる。

いえ、多くを語るつもりはないのでご安心を。ただ、もしまだあなたがお読みでなかったら、こんな書き出しの小説に惹かれるかもしれないと思って冒頭をご紹介したい。

ワインのボトル。ナチョ・チーズ味のトルティーヤ・チップスの大袋と、ホット・サルサ・ディップの壜。手もとにはタバコをひと箱(はいはい、言いたいことはわかります)。窓に叩きつける雨。そして本。

これって最高の組み合わせじゃない?

ワインからタバコまでの組み合わせは人によりけりだとして、居心地のいい部屋でこんなふうに本を手にできたら最高だ。人によってはこの描写のようにこの本を手にして読み始めるかもしれない。

『カササギ殺人事件』は世界各国で愛され、ベストセラーとなった名探偵アティカス・ピュントのシリーズ第九作だ。八月の雨の夜、わたしが読みはじめたこの作品は、このときはまだ原稿のプリントアウトにすぎない。これを出版するために編集するのが、わたしの仕事だ。まずは楽しんで読もうと、心に決めた。この夜、帰宅したわたしは……

そう、どうやら彼女は、私がいま読もうとしている本と同じタイトルの原稿をこれから読もうとしているらしいのだ。しかも、この本のせいで彼女の人生は変わったと思わせぶりなことを言う。そんなふうに彼女のおしゃべりが少し続いたあとで、改めて扉のページが現れる。

名探偵アティカス・ピュント シリーズ

カササギ殺人事件

アラン・コンウェイ

小説中で小説が始まる。もうこの仕掛けだけでたまらない。

毎晩少しずつ、仕事と睡眠のあいだのちょっとした時間を使って、残りページが減ってゆくのを惜しみつつ夢中になったのだった。

原作はAnthony Horowitz, Magpie Murders (2017)。

おかげで、次に息抜きで読む本を選ぶのが難しい。何冊か読みかけては棚に戻し、結局、新訳なったアガサ・クリスティ『ミス・マープルと13の謎』(深町眞理子訳、創元推理文庫、2019)を読むことにした。昔旧訳を読んで面白いことを知っている本だけど、中身はすっかり忘れているのでこのたびも楽しめそう。