翻訳 の検索結果:

蒐書録#011:ステファン・グラビンスキ『火の書』ほか

…』と『狂気の巡礼』を翻訳している芝田文乃さん。 この本を買った日、帰りの電車で読み始め、駅を乗り過ごした。芝田さんの日本語を介して感知されるグラビンスキの静かで大仰なところのない文体を好ましく思う。 『動きの悪魔』の帯に「ポーランドのラヴクラフト」という形容があって、これは私もそうだったけれど、グラビンスキを知らない潜在的な読者へのアピールとしては効果がある(未知を既知になぞらえる作戦)。他方で、いま述べた文体の点で、ラヴクラフトとはだいぶ異なるタッチをもった作家だと思う。 …

蒐書録#10:飯田泰之『経済学講義』ほか

…」が収録されている。翻訳の底本は、D. Martin Luthers Werke, Kritische Gesamtausgabe。講談社学術文庫のための新訳。 ★木村凌二『興亡の世界史 地中海世界とローマ帝国』(講談社学術文庫2466、講談社、2017) 原本は「興亡の世界史」第04巻(講談社、2007/08)。「興亡の世界史」文庫化第III期は本書を筆頭に5冊刊行予定とのこと。 ★網野善彦『日本社会再考――海からみた列島文化』(ちくま学芸文庫ア17-7、筑摩書房、2017…

蒐書録#006:山田慶兒『日本の科学――近代への道しるべ』(藤原書店、2017)

…8-389ページ) 翻訳などをしていると、ときおり(いや、しばしば)同じような絶望を感じることがある(梅園を読解するのに比べたら大袈裟な言い方かもしれないけれど)。書き手がなにを言おうとしているのかまるで分からず、単語や文の単位では分かるように感じても、その連なり全体では意味が分からない、というふうに。要するに、その文を理解するために必要な文脈をつかめないとこういう苦心をすることになる。 読みようによっては、『〆切本』(左右社)に掲載されてもよい文章かもしれない。というのは半…

『池澤夏樹、文学全集を編む』(河出書房新社、2017/09、近刊)

…、この全集にもある。翻訳で読んで興味がわいた読者は、放っておいても原文を探したり、他の翻訳にも目を向けたりするものだ。その手前ではるかに重要なのは、ファーストコンタクトの第一印象ではなかろうかと思う。 同全集にことよせた私事のようなことで恐縮だけれども、2014年に『文体の科学』(新潮社)という本を出した。その後、同書をおもしろがってくださった池澤夏樹さんと対談する機会を頂戴して、池澤訳『古事記』についてあれこれおしゃべりをした(「古事記のインターフェイス」と題して『新潮』2…

蒐書録#005:千葉雅也『動きすぎてはいけない』ほか

…m Thales to Higgs (2017) 書店の洋書売り場に行くたび、ポピュラーサイエンスの棚で目に入って、そのつど読みたいなあ、読もうかなあ、でもあとでいいかなあ……などと迷っていたら翻訳が出た。科学史において図が果たした役割について考えてみたいと念じていたこともあって、うれしくありがたい訳業。解説は村山斉氏。著者と解説者のプロフィールはあって、訳者のプロフィールがないのがちょっと気になった。原題を直訳すれば『物理を描く――タレスからヒッグスまで2600年の発見』。

蒐書録#003:エンリーケ・ビラ=マタス『パリに終わりはこない』他

…ma, 2003)の翻訳。『バートルビーと仲間たち』(新潮社、2008)、『ポータブル文学小史』(平凡社、2011年)に続いて木村榮一氏訳。 ★ポルドミンスキイ『言葉に命を――ダーリの辞典ができるまで』(尾家順子訳、群像社、2017) Порудоминский, Жизнь и слово (1985)、「ロシアの辞書編纂者として名高いウラジーミル・イワーヴィチ・ダーリの伝記物語『人生と言葉』(原題)の翻訳」(訳者あとがき)。辞書編纂者たちの伝記を集めて読みたい。 ★マリオ…

蒐書録#002:マドレーヌ・ピノー『『百科全書』』他

…No. 2794)の翻訳書。吉川浩満くん(id:clnmn)の「著者名が美味しそうで困る」というつぶやきをうっかり読んだために、もうマドレーヌとピノのことしか考えられない。どうしてくれるんだ。書名に『百科全書』と二重カギ括弧がついているので、上記のようにしてみたけれど、これでよかったのだろうか。それとも私が知らないだけで、こういうときのために三重カギ括弧などもあるのだろうか。 ★『美術手帖』第69巻通巻1059号2017年09月号「川島小鳥 Eternal Shine」(美術…

そんなときは歩くに限る

…きエッセイ”Language without Place”の翻訳を担当しているけれど、ジョセフさんの文章もBAEだ(次号に最終回が掲載される予定)。 このたびご縁があって、ソルニットさんの『ウォークス』の書評を「週刊読書人」(2017年8月25日号)に寄稿したので、それをご紹介しようと思ったのだった。 ⇒左右社 > レベッカ・ソルニット『ウォークス』紹介ページ http://sayusha.com/catalog/books/nonfiction/p9784865281385

石井雅巳「やっぱり知りたい! 西周」(全3回)

…でも、「哲学」という翻訳語をはじめとする学術関連の語彙を整備したという点では、現在の日本の学術の恩人の一人とも言えましょう。また、今回石井さんが第二回、第三回のタイトルに掲げているように、学術のみならず多くのことにかかわる日本語論(明治期には、日本語をどうすべきかという議論が盛んになされてもいたのでした)や、人びとの生活や国家を律する法にも、西の仕事は及んでいます。 現在の足元を見直すという意味でも、意義深いレクチャーだと思います。 私も都合が合うかぎり聴きに参ろうと思います…

新企画に向けて

…お話しをして参りました。目下仕掛かり中のものを終え次第、順次とりかかります。 ここからはモブキャストでのゲームに関わる仕事と、各方面の執筆・翻訳をどしどし進めて参る所存です。 引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。 そうそう、国書刊行会の「レム・コレクション」も、とうとう最終刊が出て完結したそうですね。既刊分をそのつど読んでいたはずなのですが、すでにどこにあるのかも分からんようになっております。完結を記念して、もう1回全巻入手しますか。 www.kokusho.co.jp

田川建三訳著『新約聖書 訳と註』全巻完結

…と、そして古代文献の翻訳に必須の訳註がついていないこと等の欠点があります。 そうした背景のもと、今回の「田川建三個人訳」は、いわゆるキリスト教会のドグマから完全に自由で、かつ、徹底した正文批判がなされ、一つ一つの語義・語釈についても詳細な註釈が施されています。本書により、名実ともに世界に通用する日本語訳「新約聖書」が誕生したこととなります。 ●本叢書の特徴*不要な解釈や護教的読み込みを排して、できる限りギリシャ語原文そのままに日本語に移し替えた。*既存の訳と異なる場合は、「註…

コレクションから浮かび上がるもの――Instagram / Pinterest

…つでありますね。最近翻訳が出たジョン・R・テイラーの『メンタル・コーパス――母語話者の頭の中には何があるのか』(西村義樹+平沢慎也+長谷川明香+大堀壽夫編訳、古賀裕章+小早川暁+友澤宏隆+湯本久美子訳、くろしお出版、2017)〔John R. Taylor, The Mental Corpus: How language is Represented in the Mind, 2012〕は、そういう観点でも興味ある議論をしている本でした。 ちょうどいま、あるインタヴューのゲラ…

イェスパー・ユール『ハーフリアル』読書会のためのメモランダム #09

…〕を見てみよう。 (翻訳に使った原書。ページを分解して持ち歩いたため、ページはバラバラ) というのも、同書の第7章と第8章は、「ゲームを定義する」「ディジタルゲームを定義する」と題して、ユールと同様の考察を行っているからである。 サレンとジーママンは、同書第7章「ゲームを定義する」の冒頭近くで「遊びとゲーム」という節を置いている。そこでは「遊び(play)」と「ゲーム(game)」という二つの言葉が比較されている。議論はこんな具合。 初めの一歩として、ゲームというものが、それ…

執筆・翻訳計画を立て直します

…束している本の執筆と翻訳を中心に取り組む所存です。 まずはここ数年「いま終わる、もう終わる」と蕎麦屋の出前みたようなことばかり申してきた『夏目漱石『文学論』論(仮)』(幻戯書房)です。本文を脱稿して、目下は付録の作業を進めております。 また、吉川浩満くんと共訳の『先史学者プラトン』(朝日出版社)、『時間のカルトグラフィ』(フィルムアート社)も翻訳作業を進めております。 共著では三宅陽一郎さんと『ゲーム人工知能入門(仮)』(ちくまプリマー新書)、吉川くんとの共著『生き延びるため…

「知は巡る、知を巡る――西周とまわる日本語の旅」

…語!?:西周と鷗外の翻訳実践」20:35 質疑・全体ディスカッション21:00 終了後懇親会あり 申し込み方法などは下記をご覧くださいませ。主催のTsuwano T-space(島根県津和野町東京事務所)のfacebook内にある告知ページへのリンクです。 ⇒facebook > Tsuwano T-space https://www.facebook.com/events/2175927969300935/ 「百学連環」を読む 作者: 山本貴光 出版社/メーカー: 三省堂 …

イェスパー・ユール『ハーフリアル』読書会のためのメモランダム #01

…かもしれない。 近頃翻訳が出たマイケル・ワイスバーグ『科学とモデル――シミュレーションの哲学入門』(松王政浩訳、名古屋大学出版会、2017)〔Michael Weisberg, Simulation and Similarity: Using Models to Understand the World, Oxford University Press, 2013〕は、科学の分野で用いられるモデルやモデリングという概念について、その性質や問題点を検討したたいへん面白い本だ。 …

ナツクサヤ ツハモノドモガ ユメノアト

…、書くべき本や原稿、翻訳すべき本、つくるべき企画書、対談やインタヴューの準備について、どんどん書き出しました。 ほらみろ、これならどれだけ終わっていない仕事があるのか一目瞭然。いかな怠惰なわたくしといえども、毎日これを目にすれば、否応なくどしどし仕事をせんければなるまいて。われながらいいアイディアじゃ。くほほ。と、町田康の小説風にひとりほくそ笑んでおりました。 ところが。 いざ付箋紙を壁に貼ってみるとどうでしょう。 はじめは40枚ほどの付箋が壁を覆って、なかなかの壮観だったの…

スコット・ジョセフ「場所のない言葉」第3回「第二のことが第一に」

…、2017/06)に翻訳を寄稿しました。 スコット・ジョセフ「場所のない言葉」第3回「第二のことが第一に」です。 特集の「グラフィックの食卓」もたいへん充実しております。 また、新連載の太田暁雄「アトラス考――生態学的世界観の視覚化」にも注目したいと思います。初回となる今回は「オットー・ノイラートと『社会と経済』のアトラス」。 オットー・ノイラートといえば、BNN新社から『ISOTYPE』という本が出るようです。 事象と意味をつなぐ視覚化(=絵文字化)のシステム、ISOTYP…

松田行正『デザインってなんだろ?』書評

…行を機とした対談。 翻訳について柴田さんがこんなことをおっしゃっていて笑ってしまった。 過去にヘミングウェイの作品を訳した時にも、なるべく余計なことはしないように努めました。ただこの人は少しおっかなくて、「余計なことをしたら張り倒すぞ」と睨まれている感じ(笑)。オースターは、もう少し優しく、見守ってくれている気がします。 そういえば、作家によっては翻訳書に解説をつけるのも嫌う人があるとかないとかといった話も聞いたことがあります。 2017.05.25追記 上記書評が『週刊読書…

山田俊弘『ジオコスモスの変容――デカルトからライプニッツまでの地球論』

…出版会、2004)の翻訳もあります。 本書は、主に17世紀のヨーロッパ、後に「科学革命」と呼ばれることになる知の大きな変動が生じた時代に、当時の知識人たちが地球をどのように見ていたか、論じ合ったかを追跡しています。 誰も正しい答えを知らない問いに向かって、人びとが仮説を出し合い、丁々発止の議論を交える様子は、対象が地球と、スケールが大きく、具体的なこともあって、門外漢の私たちでもおおいに楽しめること請け合いです。 もちろん本に唯一正しい読み方などはないけれど、おすすめの楽しみ…

『考える人』と私

…」は、ブックガイド、翻訳、連載第1回という互いに異なる文章を同時に寄稿するという、いま考えてもよくやったなあと思うような号でした。 このとき連載を始めた「文体百般」は、後に『文体の科学』として単行本になるものです。いつかも書いたかもしれませんが、もともと「文体百般」という企画は、『考える人』でどんな特集をしたら楽しいかというアイディアを出したうちの一つでした。つまり、自分で書くつもりではなく、いろんな人にそういうことを書いてもらったのを並べたら、さぞかし面白いものになるだろう…

フェリックス・ラヴェッソン『十九世紀フランス哲学』(詳細目次あり)

…e, 1868) の翻訳。 「解説」に書かれている本書の成立事情が面白い。 1867年開催のパリ万国博覧会に際して、公教育省はフランスにおける諸学問の現状報告の作成を求めた。『フランスにおける文芸と科学の進歩についての報告集(Recueil de rapports sur les progrès des lettres et des sciences en France)』がそれであり、「哲学」の報告書作成は、ラヴェッソンに任せられた。かくして1868年に刊行されたのが本書だ…

『[新訳]ステファヌ・マラルメ詩集』

…899)の全49篇の翻訳。『ユリイカ』(青土社)2015年1月号から9月号に連載した訳文に若干の修正を加えているとのことです。 この電子テキストには、日本語訳だけでなく、フランス語原文も収録されています。原文は、プレイアード叢書の『マラルメ全集I』(ベルトラン・マルシャル校注、ガリマール、1998)。 49篇の詩に使われたすべての単語について検索できるインデックスつき。 Kindleで詩集を読んだことがなかったので、ものは試しと入手してみました。画面の例をお示しすると、こんな…

ヤーコプ・ヴァッカーナーゲル『統語論についての講義Ⅰ』

…は1920年刊行で、翻訳の原文は1950年の第2版とのこと。 全XLIX章(49)のうち第XXXIII章(33)まで訳されています。 同書は、比較的最近、英訳も出ているようですね。 Jacob Wackernagel, Lectures on Syntax: with special reference to Greek, Latin, and Germanic (edited and translated by David Langslow, New York: Oxfor…

長沼美香子『訳された近代――文部省『百科全書』の翻訳学』

…文部省『百科全書』の翻訳学』(法政大学出版局、2017/02) 読もう読もうと思いながら、書店に行くたび遭遇できず、別の本を買うということを繰り返すこと1ヶ月。このたびようやく手にすることができました。 というと、そんなに読みたいならさっさと注文なり取り寄せなりすればいいじゃないのと言いたくなる向きもあろうかと思いますが、それはそれ。手にしたところで、仕事その他ですぐには読めないのなら、いっそのこと出会うまでの過程を楽しめばいいじゃない、という次第。 どこに置かれてるかな、な…

スコット・ジョセフ「場所のない言葉」第2回

…2017年04月)に翻訳を寄稿しました。 スコット・ジョセフ「場所のない言葉」の第2回「アルファベットの隙間」です。 特集は「グラフィックデザインの〈め〉新世代デザイナ――21人の姿勢」。 この秋に刊行予定の『組版造形』パイロット版も掲載されています。 文:白井敬尚 補注:郡淳一郎組版書誌:内田明 編集:室賀清徳デザイン:白井敬尚形成事務所(白井敬尚,加藤雄一,江川拓未) これはとても楽しみ! http://www.idea-mag.com/idea_magazine/377…

「悩みの総合カタログ、それが『人生談義』」

吉川浩満くん(id:clnmn)との新連載「人生がときめく知の技法」(webちくま)の第2回が掲載されました。 「悩みの総合カタログ、それが『人生談義』」と題して、少しずつ本題のほうへ。 そういえば、エルンスト・ヘッケルの『宇宙之謎』(栗原元吉訳、玄黄社、1917)の巻末に、当時出ていたエピクテートス先生の翻訳書の宣伝がありました。 ご覧ください。 www.webchikuma.jp

回顧と展望2016

…目の本となりました。翻訳書も含めるとこれまで都合14冊の本を刊行した計算であります。2004年に最初の著書『心脳問題――「脳の世紀」を生き抜く』(吉川浩満と共著、朝日出版社)を刊行してから12年が経ちましたので、平均すると年に1冊程度ということになりましょうか。といっても、とりたてノルマや目標があるわけではなく、たまさかそうした機会が巡ってきた折りに書いているというのが実情であります。 なぜこんなことが気になったかというと、先日、外山滋比古さんにお話を聞く機会があり、事前の準…

2016年の仕事

…、新潮社) ■D. 翻訳 ★01.スコット・ジョセフ「場所のない言葉」第1回「テクノロジーとしての歩行」(『IDEA』第376号、誠文堂新光社、2016年12月) ★02.エイドリアン・ショーネシー「ジュリアン・シュロファー――雑食のデザイナー」(『アイデア』No. 375、誠文堂新光社、2016年09月) ■E. 連載・再録 ★01.山本貴光+吉川浩満「人文的、あまりに人文的」第8回(『ゲンロンβ9』) ★02.山本貴光+吉川浩満「人文的、あまりに人文的」第7回(『ゲンロン…

エトムント・フッサール『内的時間意識の現象学』

…れているフッサールの翻訳は次のとおり。 ★『ブリタニカ草稿――現象学の核心』(谷徹訳、2004/02) ★『間主観性の現象学 その方法』(浜渦辰二+山口一郎監訳、2012/05) ★『間主観性の現象学II その展開』(浜渦辰二+山口一郎監訳、2013/09) ★『間主観性の現象学III その行方』(浜渦辰二+山口一郎監訳、2015/10) また、文庫で読めるフッサールには次のものもある。 ★『純粋現象学及現象学的哲学考案』(上下巻、池上鎌三訳、岩波文庫643-1, 2、193…