★Avicenna問題解決か

Avicenna を「アヴィセンナ」と読むのか「アヴィケンナ」と読むのか、という疑問について。アラビア語名がイブン・スィーナーだから、それを音写したらば、「アヴィ・センナ」のほうがちかいのであって、「アヴィケンナ」という読みは、アラビア語からラテン語への音写が行われたあとに、あらためて Avicenna をラテン語読みした結果「アヴィケンナ」という読みもあらわれたんではないか。――というのが前回までのあらすじ(というか憶測)。


イブン・スィーナー『医学典範』(五十嵐一訳、「科学の名著II-8」、朝日出版社、1981/11)を読んでいたら、こんな文章に出会った。

「イブン・スィーナーはヨーロッパでは「アビセンナ」の名で呼ばれ、西洋の学術、とくに哲学と医学で巨大な影響を及ぼした。日本では、アヴィケンナ、アヴィチェンナなどとも表記されているが、Avicenna というラテン名はもともとと〔ママ〕 Ibn Sina というアラビア名の音をラテン語の表記に移したものであり、前者の綴りのなかにある c は、後者の s に対応するものであるから、十二世紀のスペインで彼の名前がラテン語に移されたとき、それは「ス」の音を保持していた筈である(因みに現代のスペイン語でも c の前の s は、「セ」と発音する)。またスペイン語の v は b の音であるから、結局「アビセンナ」というのが最も妥当な表記であろう。」伊東俊太郎「アラビア科学とイブン・スィーナー」



おお、伊東先生、腑に落ちました。


なお、上記の邦訳書『医学典範』は、全5巻のうちの第1巻の1部を訳出したもの。訳者五十嵐一は、イブン・スィーナーを概説する文中で、すくなくとも第1巻の全訳を刊行するつもりだ、と抱負を述べている。その五十嵐がラシュディの『悪魔の詩』を邦訳(1990)し、おそらくそのために何者かによって殺害されたのは1991年のことだった。