2024年これからの予定

2024年の予定を記します

*リンクは、当ブログの記事へのものです。

■イヴェント

・08/24:石田月美+渡辺祐真+山本貴光「エゴと向き合う文章」(マルジナリア書店)

・08/28:斎藤哲也+吉川浩満+山本貴光「個人的なことは哲学的なこと」(ゲンロンカフェ)

■執筆

・【寄稿】アレックス・ライト『世界目録をつくろうとした男』(鈴木和博訳、みすず書房)書評(「日本経済新聞」2024年07月13日号)

・【寄稿】宮崎智之『平熱のまま、この世界に熱狂したい 増補新版』(ちくま文庫、2024年6月)解説

・【寄稿】「共に書く、友と書く」(『現代思想』2024年6月号、青土社)

・【寄稿】「何者でもなく心を遊ばせる時間」(『ユリイカ』2024年6月号、青土社)

・【連載】「アーカイヴとウェブ上の記憶をめぐる作業日誌」(DISTANCE.media)

・【翻訳】DK社編『哲学ってなんだろう?』(拙訳、東京書籍、2024/03/08)

・【解説】エリック・ジマーマン『遊びと創造』(高崎拓哉訳、BNN、2024/04/17)

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杉亨二『[寸多][知寸][知久](スタチツチク)歴史及理論之部』

(すぎ・こうじ、1828-1917)がいる。

緒方洪庵、坪井信良、杉田成卿らにオランダ語、フランス語を学び、後に開成所教授職に就いて西洋に統計学があることを知ったとか。

明治16年に共立統計学校で、マックス・ハウスホーフェルの西欧統計学を講述したものを、聴講生だった横山雅男が筆記したノートがあって、そのノートを1980年に日本統計協会が本として刊行したようです。

このときの杉によるstatisticの訳語は、スタチスチクという音を漢字に移すだけでなく、「スタ」=「寸+多」、「チス」=「知+寸」、「チク」=「知+久」という漢字を組み合わせが造字をしたそうで……と書いてもなかなかイメージをお伝えしづらいので画像でお示しすると、こんなふうです。

無茶しやがって……という気持ちと、そんなことしていいんだ(いいわけではない)という気持ちとが綯い交ぜになった奇妙な心持ちになる、そんな造字です。

この案がそのまま普及していたら、今頃私たちも「統計」という代わりに「

上記したノートの復刻版は、国立国会図書館のデジタルコレクションで閲覧できます(要ログイン)。以下はそのリンクです。

思わず日本の古本屋で復刻版を注文してしまいました。

 

★『[寸多][知寸][知久] 歴史及理論之部 1』(日本統計協会、1980)
 https://dl.ndl.go.jp/pid/12011861

★『[寸多][知寸][知久] 歴史及理論之部 2』(日本統計協会、1980)
 https://dl.ndl.go.jp/pid/12011764

★『[寸多][知寸][知久] 歴史及理論之部 別冊』(日本統計協会、1980)
 https://dl.ndl.go.jp/pid/12011762

 

 

斎藤哲也、吉川浩満、山本貴光「個人的なことは哲学的なこと」(ゲンロンカフェ)

2024年8月28日の夜、ゲンロンカフェで斎藤哲也さん、吉川浩満くんと「個人的なことは哲学的なこと」というテーマで話しました。

ゲンロンカフェで設定していただいたこのテーマ、事前はなにを話したらいいだろうねと考えて、今回は3者それぞれが、思い出の、あるいはお勧めの哲学書のリストと、私的哲学書のリストをつくって配付してみました。アーカイブでご視聴の場合も、ファイルをダウンロードいただけます。

 

shirasu.io

石田月美、渡辺祐真、山本貴光「エゴと向き合う文章」(マルジナリア書店)

2024年08月24日の夜、石田月美さんの新著『まだ、うまく眠れない』(文藝春秋)の刊行を記念したトークイヴェント「エゴと向き合う文章」に登壇しました。石田さん、渡辺祐真さんとともに、自分について書くということについてお話ししました。

アーカイブ視聴は8月31日までとのこと。

「〈ルリユール叢書〉から世界文学の翻訳を考える」

2024年8月3日(土)に、紀伊國屋書店新宿本店のアカデミックラウンジで、「〈ルリユール叢書〉から世界文学の翻訳を考える」と題したトークイヴェントに登壇しました。

幻戯書房が2019年に創刊した海外文学の翻訳シリーズ〈ルリユール叢書〉が50点に達したことを記念するイヴェントでもあります(現在は55冊刊行)。

イヴェント会場の紀伊國屋書店新宿本店アカデミックラウンジでは、〈ルリユール叢書〉のブックフェアも開催中です。普段はなかなかまとめて目にする機会の少ないこの叢書が一堂に会しています。

また、フェアの棚では「ルリユール叢書刊行50点突破記念小冊子(非売品)」も配付されています。同叢書の訳者たちが、自分の担当した本の紹介と、関連する本のおすすめが収められています。部数に限りがあるようです。

さて、トークイヴェントの出演は、西村靖敬さんと鳥澤光さんと私の3名、それと司会進行として〈ルリユール叢書〉を企画編集している中村健太郎さんです。

西村靖敬さんは、フランス文学をご専門とする研究者で、〈ルリユール叢書〉の1冊として刊行されている、ヴァレリー・ラルボー『聖ヒエロニュムスの加護のもとに』の訳者でもあります。ご著書に『文学の仲介者ヴァレリー・ラルボー』(大学教育出版、2017)、『1920年代パリの文学』(多賀出版、2001)などがあります。

また、鳥澤光さんは、ライター/編集者として、さまざまな雑誌やメディアでご活躍中で、文芸方面では『文學界』(文藝春秋)にて新人小説月評も担当しておいででした。私は、自分では目に入らない面白いマンガや小説を、鳥澤さんの投稿などから教えてもらっています。

今回のイヴェントでは、ヴァレリー・ラルボーを中心に、文学作品の翻訳についてあれこれと話を伺いました。西村さんは、大学のフランス語の授業でラルボーの掌篇に触れたとのことで、当時のテキストを持参して見せていただきました。

ラルボーは、母語であるフランス語に加えて、英語やスペイン語をはじめ、いくつかの言語を使ったポリグロットでした。複数の言語にまたがって文芸を中心にものを読み書きし、自ら翻訳した作品も少なくありません。

また、目利きとしては、まだ世評が定まる前のジェイムズ・ジョイスを高く評価して、『ユリシーズ』刊行前に、ジョイスの詩や小説がもつ面白さや新しさを語るばかりか、作家を支援し、『ユリシーズ』のフランス語訳にも手を貸しています。ラルボーのジョイス論は、丸谷才一編『現代作家論 ジェイムズ・ジョイス』(早川書房、1974)の巻頭に入っています。これを読むと、すぐにでもジョイスの文章を読みたくなります。

そんなラルボーの言語感覚や翻訳観が面白くないはずはなく、実際、『聖ヒエロニュムスの加護のもとに』に集められた翻訳論を中心としたエセーの数々は、文芸や言語表現がもつ力とその秘密を垣間見させてくれます。

その書名からは少々分かりづらいのですが、ヒエロニュムスとは、4世紀から5世紀にかけて活動したキリスト教の教父の1人です。彼の仕事では、とりわけ『ウルガタ聖書』と呼ばれるラテン語訳聖書の編集・翻訳がよく知られているでしょうか。下の写真は、この際自分でも吟味してみたいと思い立って手にした『ウルガタ 第5版』(ドイツ聖書協会、2007)です。古いものでよければ、Internet Archiveその他で閲覧できると思います。

ヒエロニュムスはこの聖書をつくる際、旧約についてはヘブライ語の原典からラテン語に訳したと言います。当時の聖書やキリスト教方面での翻訳がもっていた意味については、加藤哲平『ヒエロニュムスの聖書翻訳』(教文館、2018)に詳しく論じられており、これがまたたいそう面白く興味が尽きません。

イヴェントでも、その辺りのことを少し話したり、問いかけたりしてみました。

また、いまではあまり読まれなくなっているラルボー作品の面白さについても、『A. O. バルナブース全集』(上下巻、岩崎力訳、岩波文庫)他についておしゃべりできたのもうれしいことでした。目下、新刊書店で手にできるラルボーの翻訳書は、この岩波文庫と『聖ヒエロニュムスの加護のもとに』くらいでしょうか。

岩波文庫にはもう1冊、やはり岩崎力訳で『幼なごころ』が入っていますが、これは残念ながら目下は品切れ中。重版されるといいなと思います。

イヴェントでは、西村さんが作成したラルボーの作品リストが配られました。

私は『聖ヒエロニュムスの加護のもとで』の面白さを、まだ読んでいないみなさんになんとかお伝えしたいと考えて、引用集をつくったのですが、当初そこにコメントを加えることで、ただ抜粋しただけではない文書として会場のみなさんにお配りしようと思っていたところ、コメントを書く時間を捻出できないまま当日になってしまったのでした。5ページにわたる引用集には、他に『罰せられざる悪徳・読書』(岩崎力訳、みすずライブラリー、みすず書房、1998)や、上のほうで紹介した「ジェイムズ・ジョイス」(渡辺一民訳)、加藤哲平『ヒエロニュムスの聖書翻訳』などからの抜粋も並べてあります。

幻戯書房のTwitterでの投稿から引用)

というので、配付は諦める代わりに当日ディスプレイに表示しながら話しました。一例だけここにもお示ししてみましょう。

翻訳には非常に純粋かつ大いなる喜びがある。というのも、気に入った作品を翻訳するということは、単なる読書によって可能となるよりもさらに深く作品に入り込むことであり、より完全にそれを所有することであり、いわばそれをわが物とすることだからである。

(「Ⅲ 翻訳者の喜びと利得」p. 77)

今回のイヴェントに向けて、改めて『聖ヒエロニュムスの加護のもとに』を読み返してみて、「そうだ、ラルボーが言うように、気に入った作品(あるいは気になっている作品)を翻訳してみよう」という気分になり、このところよく味わいたいと思っているあれこれの文章の原文をノートに書き写し、ゆっくりと翻訳してみるということをしているのでした。

なお、〈ルリユール叢書〉については、以前「じんぶん堂」に「〈ルリユール叢書〉の楽しみ」という文章を書いたことがあります。そもそもどんな叢書なの? という方はご参考になるかもしれません。

book.asahi.com

『日本国語大辞典 第三版』(小学館、2032)

本日、小学館辞書編集室のTwitterアカウントが、こんな投稿をしていました。

思わず「わあ」と声が出ました。

『日本国語大辞典 第三版』がつくられるとは!

毎日のようにJapanKnowledgeで『日国』を引きまくっている利用者でもあり、大学その他の場所でもみなさんに勧めています。

用例を過去の文献に求める歴史主義を採用した『オックスフォード英語辞典(Oxford English Dictionary(OED))』に刺激を受けてつくられた、日本語の歴史も分かる辞典です。

下記ウェブサイトでは、『日国』の紹介映像や編集委員の金水敏先生、近藤泰弘先生の言葉、推薦の言葉なども掲載されています。

これは編集委員の一人、近藤先生の投稿。

古いヴァージョンも参照できる形になるのはうれしいですね。

『日国 第三版』の編集作業は、2024年と2025年を環境構築に充て、2026年から編集作業に着手、2032年に第三版(デジタル版)を完成の予定、さらに2034年から書籍版の発売を検討という予定とのこと。

ぜひ書籍版も刊行して欲しいと思います。

いやあ、うれしいなあ。

www.shogakukan.co.jp

kotoba-jisho.shogakukan.co.j

「医学をみんなでゲームする2」(MEdit Lab、順天堂大学)

2024年7月20日(土)に、順天堂大学で開催されたワークショップ「医学をみんなでゲームする2」に参加しました。

このワークショップは、順天堂大学の小倉加奈子先生(病理医)が代表を務めるMEdit Labが主催するもので、昨年に続いて二回目となります。

医学をテーマにしたゲームをつくりながら、医学とゲームデザインについて学ぶという内容です。私は昨年、ちょっと様子を見に伺うつもりが、気がつけば登壇者になっており、最後は参加者のみなさんがつくったゲームの企画書の添削もしていました(笑)。

今回も小倉先生からお声かけいただいて、30分ほどのレクチャー「リベラルアーツとゲームと医学と」というお題のもと、お話をしたのでした。

今回は與那覇潤さんもご登壇でした。與那覇さんは、小野卓也さんとの共著『ボードゲームで社会が変わる 遊戯するケアへ』(河出新書)のご著書もあります。

イヴェントは、小倉先生による「医学をみんなでゲームする2」の紹介から始まり、山本がゲームデザインを中心に話し、救急医と病理医のご夫婦、發知佑太さんと發知詩織さんのお二人による「ドクター人生すごろく談義」のコーナーでは医学について、與那覇さんはゲームで遊ぶことが人になにをもたらしうるかというゲームプレイについてのレクチャーがあり、最後に小倉さん、與那覇さん、私の鼎談で終わったのでした。

イヴェント終了後は、懇親会として昨年度の参加者がつくったゲームの試遊やおしゃべりの時間も設けられ、たいへん充実した初回となりました。

参加者は100名以上とのこと。今回はどんなゲームが生まれるでしょうか。

 

なお、このイヴェントの様子は、近々MEdit Labのウェブサイトで、ウメ子こと梅澤奈央さんによるレポートが公開される予定です。

meditlab.jp

昨年度のワークショップの様子も、同じくウメ子さんによるレポートを以下でまとめて読むことができます。

meditlab.jp