2013-01-01から1年間の記事一覧

回顧と展望

例によって書いている当人以外には、ほとんど意味のないことではありますが、覚え書きがてら、2013年の回顧と2014年の展望について述べてみます。 2013年は、数年越しで抱えていた仕事を片付けられた年でした。 大きな宿題の一つは、ケイティ・サレンとエリ…

科学が明かす「人間だもの」

近年、「認知バイアス」と呼ばれる人間の性質が、さまざまな実験を通じて明らかにされてきた。「バイアス(bias)」とは、「傾向」「先入観」「偏り」という意味であり、「認知バイアス」とは、要するに、人がなにかを認知する際、必ずしも妥当な判断ばかり…

未来の記憶のために

たぶん世の中には、万人が賛成する企画や計画というものはない。誰かがよいと思って考案した計画も、別の人から見れば違和があったり、反対したくなる点がある、というのが常である。 そうした賛否はともかく、そのアイディアが提示されなかったら、人が考え…

災い転じてモノサシとなす

この『自殺』という本を読みながら、末井さんの文章に感じることを一言でいうとしたら、「楽しい」というのが一番近いと思います。それと同時に、書名の「自殺」という言葉が念頭にあるものだから、「自殺の話で楽しいってどういうことだろうか」と、ちょっ…

空想地図作成法

★今和泉隆行『みんなの空想地図』(白水社、2013/11、ISBN:4560083274) 地図は楽しい。 なによりも眺めていると、空想を誘われる。学生の頃、戦時中の軍事用地図を整理するアルバイトをしたことがあった。日本列島の各地域を表した地図の端に「マル秘」の判…

『ルールズ・オブ・プレイ』を使い倒すために

お知らせが続いて恐縮です。今年の後半は、数学や明治の学術や文学の世界にどっぷり浸かっておりましたが、年末近くになってゲーム方面のお話が続きます。 2013年11月29日(金)に、Ludix Lab(NPO法人Educe Technologies)主催の公開研究会でお話をさせてい…

科学と文学の異同を探る

★戸坂潤『科学と文学の架橋』(京都哲学撰書第10巻、燈影舎、2001/01、ISBN:4924520756) 戸坂潤(1900-1945)の文章から、科学と文学の架橋というテーマに沿って編まれた作品集。 戸坂は、三枝博音、岡邦雄らと共に、1932年、唯物論研究会を設立。機関誌『唯…

連載完結

2011年4月8日から三省堂ワードワイズ・ウェブで始めさせていただいた連載「「百学連環」を読む」も、2013年11月8日掲載の第133回で最終回を迎えました。 数回の例外を除くと、週に一度、毎週金曜日に連載して参りました。 西周が私塾で行った講義「百学連環…

文学と科学

★Charlotte Sleigh, Literature & Science(Palgrave Macmillan, 2011, ISBN:0230218172) 文学と科学の関係を歴史と作品に探る研究領域の入門的配慮でつくられた本。『文体百般』(新潮社、2014年刊行予定)を書く際にもお世話になり、目下執筆中の『夏目漱石…

シリアスゲームの公開講座

イヴェントのお知らせです。 来る2013年11月12日(火)の夕方、東京大学駒場キャンパスでゲームデザインについてお話しさせていただきます。 テーマは、「社会のモンダイを遊びに変えるゲームデザインの考え方」です。 藤本徹先生と中原淳先生が東京大学で担…

新編新訳20編

平凡社ライブラリーのために編まれたホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges, 1899-1986)のエッセイ集。『論議』『永遠の歴史』『続・審問』から20の文章が選ばれ、訳出されています。訳者は木村榮一氏。 ボルヘスの作品は、多数の邦訳が刊行されてき…

第一巻 アラビア哲学

待望久しい『井筒俊彦全集』(全12巻+別巻、慶應義塾大学出版会)の刊行が始まりました。「井筒俊彦の英文著作・翻訳をのぞくすべての日本語著作を、執筆・発表年順に収録した初の本格的全集」との由。 かつて中央公論社から出ていた『井筒俊彦著作集』(全…

第五巻 身と心――人間像の転変

ここ何年か、「思想」ということがよく分からなくて、それを教えてくれそうな本に遭遇すると手にしております。ここのところは、ぺりかん社の『日本思想史講座』(全5巻予定)と『岩波講座 日本の思想』(全8巻予定、岩波書店)を中心に検討中。 『岩波講座 …

待ちきれないってどいうことだっけ

本やDVDやゲームその他なんでもよいのだけれど、手に入れるまではとても楽しみにしていたくせに、いざ手元に届くとその辺に積み上げて満足してしまうということがある。 と、こう書いてみて、記者かなにかに「先生は、この書架の本を全部読まれたのですか?…

話の作り方

物語の筋(plot)について考えているうちに、そういえば、エドガー・アラン・ポオ(Edgar Allan Poe, 1809-1849)が、「詩作の哲学」で、プロットの話をしていたな、と思いだし、同文が収録されている『ポオ評論集』(八木敏雄編訳、岩波文庫赤306-5、2009/0…

冒頭拝見(その1)

本を読んでいると、一読してなにを言っているのか、言おうとしているのか、にわかには分からない文章に出会うことがある。 例えば、一定以上の専門知識を持ち合わせている人に向けて書かれた書物などは、その最たるものだ。とはいえ、その場合は、読み手であ…

芸術家の死屍累々

★デイヴィッド・マークソン『これは小説ではない』(木原善彦訳、水声社、2013/10、ISBN:4891769866) David Markson, This is Not A Novel (Counterpoint, 2001, ISBN:0956107338) なんとも愉快な本であります。「これは絵画ではない」という絵画を描いたマ…

2013年秋の近況

ご無沙汰しております。油断しているとあっという間に日が経ちますね。 日本女子大学での講義「情報社会論」と最終レポートの採点、成績についての問い合わせへの返信などを終えて、関連の仕事は完了しました。半期14回ほどでしたが、遠藤知巳先生にお招きい…

易しくて、奥深い

★ウィリアム・J・クック『驚きの数学 巡回セールスマン問題』(松浦俊輔訳、青土社、2013/06、ISBN:4791767101) William J. Cook, In Pursuit of the Traveling Salesman: Mathematics at the Limits of Computation (Princeton University press, 2012) 数…

レトロでモダンなRPG

志良堂正史さんたちが開発したゲーム『シルアードクエスト』を、(ようやく)プレイし始めました。 『シルアードクエスト』は、ファミリーコンピュータ(1983年発売で今年30周年!)時代の『ドラゴンクエスト』(エニックス、1986)を彷彿とさせるロール・プ…

「文体百般」のその後

新潮社の季刊誌『考える人』の2011年1月号から2013年4月号まで、全10回にわたって連載させていただいた「文体百般――ことばのスタイルこそ思考のスタイルである」は、従来、文学作品の文章と内容について言われることの多かった「文体」という見方を、文学に…

数学は美しいか

『考える人』No.45、2013年夏号(新潮社、ISBN:B00DHKRK08)の特集「数学は美しいか」で、以下の原稿などを担当させていただきました。 ・「数学の愉悦を味わうために」(イントロダクション) ・円城塔「天才数学者は、変人とはかぎらない」(インタヴュー…

放射線は人体や生活にどのような影響を与えるのか

★日本保健物理学会「暮らしの放射線Q&A 活動委員会」著『専門家が答える 暮らしの放射線Q&A』(朝日出版社、2013/07、ISBN:4255007276) 日本保健物理学会の諸先生・関係者が、2011年3月11日の福島第一原発事故の直後から、ボランティアで運営した同名ウェ…

分子脳科学から見た記憶の仕組み

井ノ口馨『記憶をコントロールする――分子脳科学の挑戦』(岩波科学ライブラリー208、2013、ISBN:4000296086) いったい、厖大とはいえ限られた神経細胞のなかに、どうやってたくさんの記憶が蓄えられているのか。記憶の座と言われる海馬では、どうして記憶が…

映画・X線・精神分析

月曜社の「芸術論叢書」の二冊めとなる最新刊は、リピット水田堯氏の Atomic Light (Shadow Optics) (University of Minnesota Press, 2005, ISBN:0816646112)の全訳『原子の光(影の光学)』(門林岳史+明知隼二訳、芸術論叢書、月曜社、2013/05、ISBN:486…

「情報社会論」最終レポート課題について

2013/07/08 提出日時と場所を追記しました。 「現代社会論VII 情報社会論」の最終レポートについてご説明します。 以下の説明は、講義中で説明した課題内容と同じものです。 ただし、その後いただいたご質問に対するお答えも含めて説明を加えてあります。 受…

遊びを知り、知で遊ぶ――山口昌男、遊びの骨法

もうすぐ次号が出ようかというタイミングでなんですが、『ユリイカ』2013年06月号「特集*山口昌男――道化・王権・敗者」(青土社)に、「遊びを知り、知で遊ぶ――山口昌男、遊びの骨法」というエッセイを寄稿しました。編集部からこの原稿のご依頼をいただい…

次号の特集は「数学は美しいか」

『考える人』(新潮社)次号特集「数学は美しいか」で担当した六つの原稿(インタヴュー、翻訳を含む)のゲラを全て確認し終えました。 拙稿はともかくとして、聞き手を担当させていただいた三つのインタヴューは、大変読み応えのあるものになっております。…

下巻刊行いたしました

大変長らくお待たせしたケイティ・サレン+エリック・ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ――ゲームデザインの基礎(下)』(ソフトバンク クリエイティブ、2013/05)を、先月刊行しました。 上巻を刊行したのが2011年2月でしたから、それから数えても2年以上…

下巻の書誌

Amazon.co.jpにケイティ・サレン+エリック・ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ――ゲームデザインの基礎(下)』(ソフトバンク クリエイティブ、2013/05刊行予定、ISBN:4797334061)の書誌が出ております。 目次は以下の通りです。 ユニット3 遊び 第22章 …