科学と文学の異同を探る



★戸坂潤『科学と文学の架橋』(京都哲学撰書第10巻、燈影舎、2001/01、ISBN:4924520756)


戸坂潤(1900-1945)の文章から、科学と文学の架橋というテーマに沿って編まれた作品集。


戸坂は、三枝博音、岡邦雄らと共に、1932年、唯物論研究会を設立。機関誌『唯物論研究』を発行。1938年に同会は解散を命じられ、戸坂は治安維持法違反で検挙、1940年まで留置。裁判で有罪となり、1944年に再び留置生活となる。1945年獄死。「思想」がかくも苛烈に取り締まりの対象となっていた時代のこと。


今回は冒頭の「科学と文学の架橋へ」に注意して読んでいます。さほど強くはありませんが、マルクス主義的な表現の部分は措くとして、そこで論じられている科学と文学の関係は、以前ご紹介したシャーロット・スレイの『文学と科学』や、夏目漱石『文学論』の議論と通底しているようです。


「文学を文学という専門地域に限ることはそもそも反文学的な行き方だとさえ言えるであろう。文学は単に文芸ないし芸術を代表するだけではなくて、もっと広範な地盤を支持する。」


「科学的独創や科学的新着眼は、いつも文学的な一種のファンタジーや示唆によって導かれる。」


「批評は科学においても可能だしまた必要であることを忘れるべきではない。」


といった指摘をはじめ、それこそ示唆に富む論です。


■目次

科学と文学の架橋へ
1. 共通感覚と常識
2. 文学と科学における共変法則
3. モラリストの立場による科学と文学
4. 批評における文学・道徳・及び科学


科学論

1. 科学の予備概念
2. 科学と実在
3. 科学の方法(その一)
4. 科学の方法(その二)
5. 科学と社会
6. 科学的世界


道徳の観念
1. 道徳に関する通俗常識的観念
2. 道徳に関する倫理学的観念
3. 道徳に関する社会学的観念
4. 道徳に関する文学的観念


認識論とは何か
1. 認識について
2. 真理について
3. 真理について(続き)
4. 意識について
5. 思想について
[付一]クリティシズムと認識論の関係
[付二]哲学の現代的意義


解説 尾関周二
戸坂潤略年譜
人名索引


■書誌


「京都哲学撰書」は全30巻。


監修:上田閑照
編集:大峯顯、長谷正當、大橋良介
編者:尾関周二(本巻編集)
発行:2001/01/25
版元:燈影舎
叢書:京都哲学撰書
定価:4300円
頁数:539
索引:人名索引あり


■リンク


燈影舎 > 京都哲学撰書
 http://www.toeisha.co.jp/html/sougou_kyotetsu1-15.html