★桑原武夫編『文学理論の研究』(岩波書店、1967、ISBN:B000JA5JWK)
京都大学人文科学研究所による共同研究「文学理論」をまとめた書物。刊行は1967年。編者の桑原武夫による「序言」によれば、研究自体は、1960年5月13日に第1回が開催され、1966年8月19日の最終回まで、足掛け7年、都合139回が行われたという。
同じくその「序言」で興味あることが述べられている。現代日本(当時)は文学作品の生産量において世界に冠絶している、しかし、その盛大さと比べると、文学をふまえた思想的作品の生産量は驚くほど少ない。たしかにたくさんの文学研究者がいて、熱心に研究がなされている。ただ、「文学全般にわたる理論的考慮がとぼしい」のではないか――およそこのような指摘がなされている。では、この共同研究ではどうしたか。というとりあえずの見解がこの本に示されているという次第。
私は目下、漱石の『文学論』を読むという観点から、こうした書物を検討していることもあって、そこに目が行くのだが、本書では漱石の作品への言及は多いものの、その「文学理論」を提示した『文学論』については検討がなされていないように見える。その代わりといってはなんだが、九鬼周造の『文芸論』についての示唆を得た。
■共同研究参加者
京都大学人文科学研究所
桑原武夫
上山春平
多田道太郎
樋口謹一
藤岡喜愛
加藤秀俊
飛鳥井雅道
竹内成明
神戸大学文学部
橋本峰雄
同支社大学文学部
鶴見俊輔
大阪府立女子大学学芸学部
牧康夫
橘女子大学
荒井健
医師
松田道雄
■目次
・序言 桑原武夫
第一部 文学における価値
・文学価値論 桑原武夫+作田啓一+橋本峰雄
・小説の比較価値論 加藤秀俊
第二部 文学的発想の原型
・植物的なもの 杉本秀太郎
・鳥獣虫魚の文学 山田稔
・浄という価値 梅原猛
・羞恥と芸術 作田啓一+多田道太郎
第三部 政治と文学
・社会主義小説の濫觴 松田道太郎
・知識人の苦悩 高橋和巳
・集団価値否定の系譜 上山春平
・民族主義と社会主義 飛鳥井雅道
第四部 準拠集団としての諸民族
・朝鮮人の登場する小説 鶴見俊輔
・二つの魯迅像 荒井健
・日本におけるフランス 西川長夫
第五部 『大菩薩峠』論 橋本峰雄
付論
・文学の言語 竹内成明
・共感とイマジネーション 牧康夫
・文学経験とパーソナリティ 藤岡喜愛+樋口謹一
索引
■書誌
書名:京都大学人文科学研究所報告 文学理論の研究
編者:桑原武夫
頁数:326+10ページ
発行:1967年12月20日
版元:岩波書店
定価:950円