★ジャック・マシューズ『バトル・オブ・ブラジル――『未来世紀ブラジル』ハリウッドに戦いを挑む』柴田元幸訳、ダゲレオ出版、1989/04)
 Jack Mathews, The Battle of Brazil (1987)

この本は一人の映画監督と、一人の大手映画会社社長との闘いの記録である。といってもこれは公平で客観的な記述をめざした本ではないし、そもそもこの場合そんな試みは不可能だろう。たしかに私も、この闘いを現在進行形で追いかけ、その記事を『ロサンゼルス・タイムズ』に寄稿していた当時は、まさにその不可能事をめざしていた。その結果、両方の側から、お前は「敵」のまわし者だと非難を浴びることになった。私はまんざらでもなかった。それはジャーナリストにとっては、むしろ喜ぶべき状況だからである。


しかし、闘いが終わって、その意味を分析しようとするいま、当然そんな客観性を自慢できるような立場は捨てざるをえない。この本を読んでいただければすぐ分かるが、私はテリー・ギリアム監督の『未来世紀ブラジル』を、現代社会を見事に諷刺した傑作だと思っているし、MCA=ユニヴァーサルの社長シドニー・J.シャインバーグがこの作品を改変しようとしたのは間違っていたと信じている。そしてもっと大事なことを言えば、私は、いかなる場合にも、映画会社の重役連中が自分の芸術的直感を盲信して自ら監督の真似事をするようなことは避けるべきだ、という信念を持っている。もちろん理屈の上では、シド・シャインバーグがテリー・ギリアムよりもすぐれた作品を監督するということもあり得る。だがその可能性はおそろしく低い。



テリー・ギリアム監督作品『未来世紀ブラジル』(BRAZIL、1985、米=英、amazon.co.jp)の制作から公開をめぐってユニヴァーサル経営陣とギリアムらとのあいだでおこなわれた闘いのドキュメント。ちなみに(訊かれてないけれど)ゲーム会社も事情は一緒です(経営陣が自分の直感を盲信して)。


上野昂志鈴木清順全映画』立風書房、1986/12)


上野昂志「振り出しに戻る監督」
蓮實重彦山田宏一山根貞男上野昂志「映画はひとを成熟させない」
・「清順インタビュー あと三十本は撮れる」
上野昂志鈴木清順戦う――日活解雇・作品封鎖事件をふりかえる」
・「石上三登志インタビュー CMってのは無記名だからいいよ」
・「フィルモグラフィー
上野昂志鈴木清順全映画1991補遺」


1968年4月25日、鈴木清順は専属監督契約を結んでいた日活から解雇の通告を受ける。鈴木の友人らが日活社長・堀久作に理由をただしたところ、つぎのようなコメントを得たのだとか。(同書、上野昂志鈴木清順戦う――日活解雇・作品封鎖事件をふりかえる」より)

一、鈴木はわけのわからない映画を作る
二、たびたび注意したがいうことをきかない
三、一本六千万円もかかるのに、鈴木の映画はみんな赤字だ
四、鈴木はもうどこへ行っても映画はとれない。監督をやめたほうがいい
五、鈴木にソバ屋でもやらせろ


日活経営陣と鈴木清順とのあいだで(略)ちなみに(訊かれてないけれど)ゲーム会社も事情は(以下略)


「映画監督に著作権はない」とは、フリッツ・ラングの名言(同名の愉快な書物が筑摩書房のリュミエール叢書から出ていますがいまは品切れ)。