脳と心をめぐる六つの書簡



茂木健一郎斎藤環『脳と心――クオリアをめぐる脳科学者と精神科医の対話』双風舎、2010/08、ISBN:4902465175)が刊行されました。


同書は、2007年から双風舎のウェブサイトで掲載が始まった茂木さんと斎藤さんによる往復書簡をまとめたものです。3往復都合6回にわたる書簡は、今年になって完結しました。テーマは、書名にあるように脳と心。いわゆる心脳問題です。


クオリア」と呼ばれる意識の質感を、神経細胞の振る舞いの一般的な法則から記述すること。これを自らのミッションとしている茂木さんと、他者や言語のように、一個人の脳内では話が完結しない側面に注目する斎藤さんとの間で、心と脳の関係やいかに、という問題を巡って議論が展開されています。


今回の書籍化にあたって、双風舎の谷川さんから、吉川浩満id:clinamen)と私に、編集協力の依頼があったのは、やはり2007年のことだったでしょうか。途中、長いブランクを挟んだので、てっきり立ち消えになったのかと油断していたところ、今年に入ってから、第2信以降のやりとりが進み、そのまま6月末には最後の第6信が掲載となったのでした。


初夏には斎藤さん、茂木さん、それぞれに対して個別にインタヴューを行い、序文を書き、吉川君と手分けをして注釈を書き(私は斎藤さんパート担当)、あとがきを書いて、作図し、ゲラをチェックして、と振り返ってみれば、なかなか怒濤の進行でした(拙著『コンピュータのひみつ』も同時進行だったのでなおのこと)。


ネット公開時に書簡をお読みになった方は、ご承知のように、お二人の議論は、必ずしもなんらかの解決を見ているわけではありません。問題の性質上、快刀乱麻を断つごとく解決・解消する類のものでないことも確かです。むしろ、やりとりを通じて心脳問題を巡るさまざまな困難が浮かび上がったと言うべきでしょう。そうした難問を共有し、自分なりに考え抜こうとすることが、この往復書簡を読む何よりの醍醐味であろうと思います。


インタヴューでは、書簡で書ききれなかったことを中心に、今後の抱負も含めて語っていただいています。そういえば、品川駅のスターバックスカフェで行ったインタヴューの最中に、茂木さんがいきなりライヴ中継を始めたのには驚かされました。


また、お二人のやりとりについては、僭越ながら「あとがき」で整理を試みました。序文とあとがきは、いずれも双風舎のウェブサイト(ブログ)で公開されています。下記リンク先からご覧いただければ幸いです。




心脳問題を巡る対談として、もう一つ、社会学者の大澤真幸さんが主宰する雑誌『THINKING「O」』第5号特集「脳はひとつの〈社会〉である」(左右社)にて、茂木さんと対談をしています。こちらも、脳研究の現在と社会学の交差する地点から、多様な問題に光を当てており、斎藤さんとの往復書簡とはまた別の角度で心脳・社会問題に迫ります。


大澤さんのこの雑誌、2010年4月に創刊以来、毎月着々と刊行中。毎号、設定された特集テーマに関する対談と大澤さんの論文、参考資料から構成されています。厖大な知を蓄積・更新し続け、そのつどマッピングしてみせてきた一人の思想家(とは、他に適当な言葉を思いつかず苦し紛れに使うじつに曖昧な表現ではあります)が、同時代や歴史の諸問題に向き合うとき、その境界面でなにが生じるのか。そんな興味も手伝って、毎号どこへ連れてゆかれるのかと、最初の頁から最後の次号予告まで一文字余さず読んでいます。


次の第6号は特集「生きることを哲学する」(対談ゲスト=鷲田清一氏)。


双風舎 > 『脳と心』あとがき
 http://sofusha.moe-nifty.com/blog/2010/08/post-fae8.html


双風舎 > 『脳と心』まえがき
 http://sofusha.moe-nifty.com/blog/2010/08/post-f05d.html


⇒左右社 > 「THINKING「O」」
 http://sayusha.com/sayusha/file.html