DUBLINERS(1914) First Edition


資料を探しに書店へ。


移動中、松澤大樹の『目で見る脳とこころ』(NHK出版、2003/02)を読む。MRI、PET、X線-CTを用いて採取した各種脳状態の画像を見せながら、ブレイン・イメージング技術の現在を教えてくれる本。被験者にゲームをさせたり、映画を見せたり、本を読ませたりといったあれこれの行為中に脳のどこが活性化するかを画像で見せる。素直におもしろい。この手法でさまざまな行動とそのときの脳の活動の対応関係はある程度見えるようになる。


では心はどうか、というとそちらは心もとない。被験者の感情はいずれにしても言葉に表現しなおされなければ、そのときの脳の状態と心の状態を関連づけることはできないわけだが、そのさい心の状態をどのように言葉で表現するかが大きな問題だ。自分の内心はいつでも「これだ」と言い表せるほどよくわかるものでもない。そのうち、脳状態の方から感情の細分類がなされる可能性はあるかもしれない。悲しみのA1とA2みたいにして。そこからさらにA1とA2に対応する言葉が創作されることになり、「新しい」感情が創出されたりするんだろうか、ってこれはもはや妄想ですね。


医学書コーナーの本はどれも装幀がそっけなく価格設定が高い。コンピュータ書とちょっと似ている。「中身があればいいだろ?」みたいな。そうかと思えば妙にフレンドリーな装いで学研の学習漫画みたような本もちらほら。この辺もコンピュータ書みたいだ。そのうち『萌える解剖学用語集』(略して『萌え解』)とか出るんだろうか。


ブックファーストで『ユリイカ』の在庫全点(?)フェアを開催している。『ユリイカ』はいつから定期講読しているか覚束ないのだけれど、読んだ覚えのない記事が掲載されていることを根拠にニ冊を入手。このようにして本をダブらせるのである(良い子は真似しないように)。


肝心の資料は見つからず、岩波文庫の2月新刊と新書と雑誌を入手する。大塚の『「おたく」の精神史――一九八〇年代論』(講談社現代新書1703、講談社、2004/02)が平積みされた棚の前で中学生の女の子が三人で同書をぱらぱらやりながらアニメ談義に花を咲かせている。ん、1980年代といったらキミたちはまだ生まれていらっしゃらない? 同書は以前『諸君!』に連載されていた文章を改稿した本。1980年代に20代だった大塚氏の等身大の文化論で、講談社現代新書で400ページを越えるのは『グレート・ジンバブエ』だか『新書アフリカ史』以来ではないか、とはどうでもよい感慨だが。


大塚英志のもう一冊の分厚い新刊とサイードの『パレスチナ問題』(みすず書房、2004/02)その他は重たそうなので見送る。


ついでに Bunkamura ザ・ミュージアムに立ち寄る。「モネ、ルノワール印象派展」のタイトルどおり、ルノワールとモネとその他印象派シスレーピサロ、スーラ、クロス、シニャック、ボナールなど)の作品が80点強ほど展示されている。そうか、点描画法はコンピュータグラフィックスの元祖であったか、といまさらながら合点する。


図書館で借りてきた『円山応挙』は開いてみたら小説で吃驚。スパムメールはあいかわらず300通を超える。『エノケンシネマ』を聴きながら友人・知人からの手紙を消さないように注意しつつ「削除」を連打していると、古書店からのメールが目にとまる――

JOYCE, JAMES. DUBLINERS. London: Grant Richards 1914. First Edition.


おお、今日その邦訳を手にした『ダブリンの市民』(新潮文庫版では『ダブリン市民』)の初版ですねこれは。意味のない奇遇に意味もなく喜びながら解説を読む。この、古本屋連盟のメーリングリストで飛び交う商品情報の説明文がまたおもしろい。いや、古本屋・古書店の目録というのはそういう愉悦に満ちたものですが。

Original red cloth with gilt lettering. The very scarce original edition of Joyce's landmark book comprised of 15 short stories including the title story, "Araby," and "The Dead." Of a total of 1250 copies, this is one of only 746 copies bound by Richards with the other 504 sent to America for the edition published by B. W. Huebsch. A rare book seldom seen in any condition, this copy seems to have been either retouched or is something of an anomaly from the publisher. The red dye to the cloth seems streaked somewhat on the front cover with the gilt there mostly dull though the gilt on the spine is very strong. The endpapers, which are completely original, are dyed red and are wove while the text is laid paper. Slocum in his bibliography of Joyce notes that the endpapers should be cream-white and wove. We are unaware of any other copy that has red endpapers as does this one. In addition all edges are trimmed and dyed red as well; Slocum notes the trimming but says nothing about the color. Both blanks and the half title are of course present. The text is very clean with one page having several words rubbed resulting in light inking and someone has inked over several of the letters. On the front endpaper is the owner name of Fagge dated 1914. Overall Near Fine, lacking the extremely scarce dustwrapper.


なるほど。で、お値段は?

$12,500