しばらく前に『トロイ』(amazon.co.jp)を観た。ブラッド・ピットがアキレウスを演じるあれである。
映画はホメロスの『イリアス』を下敷きにしてストーリーが組み立てられている。とはいえ、いろいろな違いがある。
(以下、物語の内容についての言及があります)
最大のちがいは、神々が一人も登場しないところ。ホメロスの世界では、オリュンポスの神々がパトロンよろしく、思い思いの人間や陣営に肩入れをして、手を貸す。
(そもそもホメロスではアキレウスも神によって殺されたんではなかったかしら)
で、そのあたりを原作に忠実に映画化すると、『ジョジョ』のスタンドを実写化するような按配で、いまひとつ「リアル」になりがたいと思ったにちがいない(「スタンドみたいだしな」とは思わなかっただろうけれど)。
結果的にはこの処理によって原作とはまったく異なる雰囲気の作品になっている。
つぎに大きく違うところは、終わり方。ホメロスではアキレウスがヘクトルを倒したあと、ヘクトルの葬儀が営まれるところで終わる。映画はそのあと、トロイの木馬が使われる場面やアキレウスが死ぬところまでを描いている。これはクイントゥスの『トロイア戦記』あたりを参考につくったようだ。ただし、上に書いた事情からアキレウスを殺す役を神にふれないため、人間にふっているのはご愛嬌。
プログラムを読んでいると、「トロイについては詩人ヴァージルが叙事詩『アエネイス』の中で広範囲に描いているのだ」という文章にであう。もとより中身のないプログラムなのでそんなところに文句をつけるのも大人げないけれど、ホメロスをホーマーと英語読みしていないのだし、ヴァージルはウェルギリウスと表記すべきではなかったか。そうでないと、せっかく『アエネーイス』を読もうと思った人が、書店で「ヴァージルの本ください」と探しにいって、「検索してみましたがヴァージルという著者はいませんね。出版社はおわかりですか?」とつれなくされてしまうではないか。
⇒『トロイ』公式サイト
http://www.troy.jp/