原作小説=稲葉真弓『エンドレス・ワルツ』
『エンドレス・ワルツ』(日本, 1995, 102min)


稲葉真弓の小説『エンドレス・ワルツ』河出文庫amazon.co.jp)を原作とする映画。監督は若松孝二。サックス・プレイヤー阿部薫(あべ・かおる, 1949-1978, 演者=町田町蔵)と元女優で作家・鈴木いづみ(1949-1986, 演者=広田玲央名)の出会いと別れと死を描く。


嫉妬からいづみの過去をくまなく知りたがり、それも一因となって暴力をふるう薫。そんな薫を疎ましく思いながらも、同時に惹かれているいずみ。この二人の愛憎の変遷を中心に映画は構成されていて飽きるところがない。というのは思うに、薫を演じる町田町蔵氏のいつもどこかに不穏さ(いつ狂気の側へ逸脱してもおかしくない感じ)を潜めた目つきと、そこから距離をとろうとするいづみを演じる広田玲央名のつぶらで相手を見透かすような瞳が音もなく切り結んでいるから(って瞳なのだから当然なのだが)ではないか、と思う。逆に、町蔵氏の、ふだんも阿部薫役のような生活をしているんではないかと勘違いしそうなくらい板についた演技が恐ろしい。


原作小説を読んでないからわからないのだけれど、ところどころに物語の背後で同時進行しているはずの社会的な出来事を示唆するアイコンがそっとはさみこまれているのが、映画の外へとリンクをはっているようで印象的(赤軍の活動、新宿でのデモ隊と警察の戦い、企業爆破事件、現代思想ジャック・デリダ〕、若者たちの観念的な会話、日航ジャンボ機墜落事件とそれを報じるフォーカス誌、おにゃんこクラブの歌……)。


阿部薫
 http://www.yo.rim.or.jp/~t_okuno/ak.html
 ディスコグラフィーほか、関連情報を集積している。