稲葉真弓『エンドレス・ワルツ』河出書房新社、1992/03; 河出文庫河出書房新社、1997/08、amazon.co.jp)#0141*


サックス・プレイヤー阿部薫(あべ・かおる, 1949-1978)と元女優で作家の鈴木いづみ(1949-1986)の出会いと別れと死を描いた小説。若松孝二が監督した映画を先に観たせいもあって、小説を読むあいだもずっと脳裏には町田康(as 阿部薫)と広田玲央名(as 鈴木いづみ)の姿が思い浮かんだ。読んでから観るか、観てから読むかは、重大なちがいをもたらす。


小説は、鈴木いづみに焦点をあてた一人称で書かれている。鈴木いづみが想いを寄せた男の象徴として登場する人物が、小説ではバンドのヴォーカリストであったのが、映画では左翼の活動家におきかえられていた。街の薬局でわりと簡単に手にはいるドラッグを常用するところ、その時代に聴いていた音楽から、かろうじて1970年代の空気が伝わるものの、時代背景にはほとんど筆が割かれていなかったのが個人的に残念だった。言い換えると、完全な虚構として時代をたとえばそのまま現代においても問題がないつくりになっていると思う。評伝ではないのだから、それでいいといえばいいのかもしれないけれど、つい欲が出てしまう。


初出は、『文藝』1991年12月号。


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