★有坪民雄+守屋淳『最強! 戦略書徹底ガイド』(SoftBankCreative、2005/12、amazon.co.jp


ブックガイドとは、大袈裟に言えば現存する全ての書物の集合から、限られた数の書物を選び出し、並べ、解説を加えたメタ・ブックだ。


もちろん実際に「現存する全ての書物」に眼を通した人間は一人もいないのだからこれは一種の空想に過ぎない。けれども経緯はともかくとして、書物の形にしあげられたブックガイドには、どこかその背後に「現存する全ての書物」が存在する、という空気が漂っているような気がして、つい惹かれてしまう。


ブックガイドの愉しみはいろいろあると思われるが、当該ブックガイドが設定するテーマというのもそのひとつだろう。ブックガイドはテーマを提示して、そのテーマにまつわる書物を紙の上でコレクションして見せる。もちろんそのコレクションそのものに触れるおもしろさもあるけれど、さらにはそのテーマ設定を手渡されて、「現存する全ての書物」を能う限り見直してみるという愉しみもまた格別。



本書『最強! 戦略書徹底ガイド』SoftBank Creative、2005/12)は、孫子から現代までの「戦略書」から八十余冊を選んで紹介するブックガイド。目次を見ると、ビジネスパーソン向けを意図して作られているようだが、孫子マキアヴェリモルトケクラウゼヴィッツといった古典やビル・ゲイツデール・カーネギードラッカー、フィリップ・コトラーといったビジネス書でお馴染みの名前のなかに、カウティリヤ『実利論——古代インドの帝王学(上村勝彦訳、岩波文庫、1984/09、amazon.co.jp)や、川上徹『査問』ちくま文庫、2001/07、amazon.co.jp)、小林照幸『害虫殲滅工場——ミバエ根絶に勝利した沖縄の奇蹟』中央公論新社、1999/11、amazon.co.jp)といった書物が選ばれているのも面白い。


著者によれば、選書にあたって以下の四点に留意したとのこと。


・できるだけいろいろな視点から本を選ぶ。
・似たようなものは、他にも重要な本があっても一冊だけを選ぶ。
・戦略思想の歴史を押さえる。
・敗者の戦略も入れる。


四点目がよいと思う。ビジネスという事柄の性質上、ともすると成功譚に眼が行きがちだけれど、実は成功者の言葉よりも(失)敗者の言葉にこそ学ぶこと、含蓄ある考察が含まれていることが多いということがままある*1


ということから日本史を眺め直したのが、山口昌男『「敗者」の精神史』岩波書店、1995/07; 岩波現代文庫岩波書店、2005/06、amazon.co.jp)や『敗者学のすすめ』平凡社、2000/02、amazon.co.jp)であった。



また、もはや連想に過ぎないけれど、ドミニク・ノゲーズ(Dominique Noguez, 1942- )の『人生を完全にダメにするための11のレッスン』高遠弘美訳、青土社、2005/11、amazon.co.jp)は、人生の失敗を成功に導く(?)数々のテクニックがこれでもかと紹介された抱腹絶倒の一冊。書店で同書を手にしたら、「舌で耳たぶに触れようとして失敗」した現場を押さえた写真を見ていただきたい。失敗の奥深さとその機微に触れられること請け合い。もはやなんの話をしているのかわからなくなってきたが、マルタン・パージュ(Martin Page, 1975- )の『僕はどうやってバカになったのか』大野朗子訳、青土社、2003/11、amazon.co.jp)と併読すれば、いっそう失敗に磨きをかけることができるだろう。失敗の失敗は成功なのだ?


SoftBank Creative
 http://www.sbcr.jp/


⇒哲学の劇場 > 作品の愉悦 > 2003/10/29 > 脱教養小説
 http://www.logico-philosophicus.net/hedonism/hedonism2003b.htm
 上記マルタン・パージュの小説について

*1:ゲームでもいわゆる「クソゲー」に関する言葉のほうが考察が深くおもしろいことや、雑誌『映画秘宝』に溢れる映画愛なども同じ観点から論じたら怒られるかもしれないが、通底するものがあると思う。ポール・ヴィリリオによる「事故の博物館」という構想などは、失敗から最大限になにかを学ぼうとする最たるものだろう、などといえばやっぱりヴィリリオから叱られるだろうか。